22話「式典前夜」
ドロシーにも傷はあり、それをメストドランは律義に
完治させてから帰してやった。
「随分と楽しんでおったな。メストドラン」
「そうか?俺はいつもこんなだけど」
ヴェルディークの言葉にメストドランはそう返した。
今まで以上に楽し気な笑みを浮かべて戦っていた。
竜にとって人間なんてちっぽけなものだろう。その思想を
改めて覆された気分だ。
「お前さんの加護か?ドロシーに掛けたのは」
帰り際にブツブツと呟いていた。それは加護を与えるための
詠唱のようなものだ。
「俺もアンタも丸くなったな」
「儂は元からこうだが?丸くなったのはお前さんだろ」
それなりに長く、この祠にいたらしくナハトが迎えに
来ていた。
「少々心配しましたよ、ドロシー様」
「ごめん。迷惑かけちゃったね。グリンダは?」
「彼女は先に戻りました。グリンダにリーベ、ラージュ…
彼等は人形なのですよね?創造主はさぞ腕がいいのでしょう!
あんなに精巧な人形は初めて見ました!」
細かな部分にも拘りがある。それに感情もあるのだ。
人形だが、人間に最も近い。
国に戻ってくるとそこでは着々と式典の準備が行われていた。
「あ、お帰りなさいませドロシー様。グリンダより話は
聞いております。その様子だと、試練を乗り越えたのですね?」
ベアトリスの言葉にドロシーは大きく頷いた。
「大丈夫。無事に乗り越えたよ」
「それは良かったです。貴方が無事で何より…ホッとしました」
ベアトリスは胸をなでおろす。自身の主人が無事である事を
心の底から喜んでくれたのだ。色んな人から信頼されて、愛されて
いる自分はなんて幸せなんだろうか。
「ドロシー様」
「オルビス!それにシリウス達も」
拳聖組が揃ってドロシーに声を掛けた。
「式典の主役がブラブラしてんじゃねえ」
「いや、大切な用事でブラブラしてたんだけど…」
シリウスの言葉にドロシーはそう返す。彼らはすっかり
この国に馴染んでいた。シリウスは改めてドロシーにあることを
宣言した。
「俺は、この国に忠誠を誓うことにした」
「それは良いんだけど…良いの?」
「構わないだろ。俺が自分で決めた事だ。誰にも
文句は言わせねえ」
こういう時のシリウスの心を折るのは無理だろう。なんせ頑固者。
この国にはかなり戦力が集まって来た。
式典前夜のこの日。
サルビアから、そしてエミリアの従者たちからある情報が手に入った。
今回の戦いは国と国だけでは無く、別の何者かが煽っていたという
情報だ。
「デフテラ王国の貴族は皆、貪欲です。この国の富を教えて
戦争を煽ったのは恐らく人間でしょう」
ジェラートの情報。
「申し訳ありません。その人間も中々用心深いようで尻尾を
掴めておりません。しかし、その人間と繋がっているであろう
魔人についての情報は集めました」
「なぬっ!!?流石、仕事が早い!!」
サルビアは仕事が早い。流石、イケメン。やることなすことが
別格だ。それを言ったらユベルだってイケメンの部類に入る。
割と周りには美形が多いのかも。
それは兎も角
「よし、式典終了後にその情報は改めて教えてくれ」