20話「古龍の試練」
吸血鬼が下等な人間と結びつくなんて。
人間が吸血鬼と結びつくなんて。
どちらもどうかしていると思われていただろう。
その間に生まれたユベルは幼いながらに生死を彷徨い続けた。
母も父も、同族から迫害され続けた。
―なんて汚らわしい化け物だ。
―下等な血で我らを汚す化け物だ。
それでも生き残り、ユベルはマーテル夫妻に出会った。
「えぇ!?凄い!吸血鬼と人間のハーフなの?私はすごーく
カッコイイと思うわ!!」
オフィーリアの反応にすっかりユベルは自身のペースを乱されていた。
「ユベル。ハーフは悪いことばかりじゃない。人間としても
吸血鬼としても生きることが出来る、とても自由な種族なんだぞ」
「そうよユベル君。他の人たちの事なんてどうでもいいの。貴方は
どうしたいの?」
そしてオフィーリアは子どもを産んだ。初めて小さな赤子を見て
やっとユベルは決断する。
自分がやることは一つ。自分を救ってくれた二人の娘を守る事。
竜の祠。そこに入ると二人の竜がいた。
一人は大胆に胸元を開けて赤い和服を着込んでいる男。
もう一人もまた和服だが青い和服を着ている。
「そう警戒するでない。取って食おうなどと思って無いぞ?」
炎竜ヴェルディーク、水竜メストドラン。4000年の時を生きる
古き竜たちだ。
「ドロシー・マーテル…勇者となる娘か。なら、ここで
腕試しも良いかもしれぬなぁ」
爺臭い口調で話すヴェルディーク、対してメストドランは不敵な
笑みを浮かべていた。何をするのか、予想はつくだろう。
メストドランは自身の手首に鈴を括りつけて挑発するように
見せつけた。
「人間、俺からこれを奪ってみろ。殺す気でな」
「殺す気…」
少々渋ってしまった。何処か、そんな気持ちになれない。
そんな彼女を嘲笑い続けるメストドランはドロシーの間近に立ち
彼女を見下ろした。
「安心しろ。人間の攻撃で死ぬわけがない」
「あんまり、満足させることは出来ないと思うけど…」
「構わねえよ。あくまでも試練、という扱いだからな」
「あ、なら!ならさ!ハンデを頂戴!!」
ドロシーの提案。メストドランはその場から三歩以上動いても
負けというハンデ。わざわざ負う必要も無いが彼は承諾した。
理由を聞いてみると
「それでこっちが楽しめるなら、ハンデぐらい喜んで
負ってやるさ」
だ、そうだ。メストドランのような性格の者は自身が
楽しめるかどうかを判断基準にする。楽しめる面を押し出せば
すぐにでも飛びつくだろう。その提案をしてきたドロシーの
度胸をヴェルディークは称賛する。
三歩というハンデ、距離を取られたら攻撃は難しい。だから
距離を取って迎撃しよう、それがドロシーの考えだ。
だが、まさか…その作戦を思いっきりぶっ壊されるとは
思ってもみなかった。
「―ウぁッ!!?」