19話「夜の剣聖と人の剣聖」
あの戦いの後。
現在の同盟国の代表者が集合した。
「公にする際は内容を大きく変えましょう」
エミリアの言葉は正しい。人間との共存共栄を目指すのなら
今回の内容をそのまま広めるのは都合が悪い。天災とされる
存在を利用する。
「バルカンさんは既にその存在に話を通しているのでは?」
「あぁ」
それが誰なのか、ハッキリとしない。
「集まって貰ったのはこの事以外にも、もう一つ…」
バルカンはドロシーを前に出した。
「改めて紹介しよう。新たな国王、そして勇者
ドロシー・マーテル。近々、継承式を行うつもりだ」
「その式典に出席してくれないか、と言う事だな」
ドワーフたちの国、レクエルド王国の国王ジゼルの言葉に
バルカンは頷いた。
「…どうにも引っかかる口調だな。やはり、ストリウスの弟と
いったところだ」
ジゼルは何かを勘づいているようだ。が、敢えてこの場では
言わない。ドロシーの後ろでバルカンは人差し指を口の前に
当てていた。
会談終了後。
夕暮れ時にドロシーはグリンダに案内されて森の奥地にやって来た。
そこに存在する祠。
「あの、ここは…?」
「竜を祀る祠でございます」
「はぁ…それで私はどうすればいいの?」
「それは単純明快。ご挨拶です!新たな王の誕生、王自らが挨拶に
行くのです。さぁさぁ、行ってらっしゃいませ!」
と、グリンダに押されてドロシーは祠の中に入っていった。
「ご武運を、ドロシー様…」
何やら物騒な言葉を呟いたグリンダ。彼女の声はもうドロシーには
届かない。彼女が祠に入ったとき、国民たちも集まって何かを
見物していた。
「何?お祭りごと?」
群衆の一番後ろの列に入り込んだカーラたちは先に見物していた
リーベに聞いた。
「剣聖シモンとの手合わせだと。ドロシーもユベルに聞かれたときに
許可は出していたからね。凄いよ、魔法を使わない純粋な剣術での勝負なのに
迫力が違う」
「ユベルが剣を使っているのも久々に見るわね」
「え?今までずっと剣を使っていなかったの?」
驚いたように聞き返してきたのはエミリアだった。同盟国の女王に粗相の
無いようにカーラたちは一礼する。
「それなのにシモンと互角…凄いわね~」
「元々、ユベルは剣において右に出る者はこの国ではおりませんでした。
先代国王も心の底から彼と剣でやり合うのを嫌がっておりましたので」
「じゃあ今は、ユベル君がこの国の剣聖?」
「間違ってはいませんね」
彼女たちは再びユベルたちに目を向けた。ユベル自身、戦う前に
長らく剣を使っていなかったので鈍っていると言っていたがその
鈍りを感じさせない動きで剣聖と互角に渡り合っている。
結局、決着は着かず、エミリアの言葉で試合は終わった。
「ビックリしたよ。少しでも油断していたら、負けていたのは
僕だった」
「そうか?俺はヒヤヒヤしてたけどな、久しぶり過ぎて」
「久しぶり?」
「20年近く剣には触れてもいなかったからな」
「ち、ちょっと待ってくれ。君は一体…?」
僅かながら混乱している剣聖シモンに追い打ちをかけるような
衝撃が走ることになる。
「ダンピーラ。これでも100年は生きてるよ、正確には160かな?」




