閑話「永遠と刹那」
永く生きて来た。
生命が誕生して、そして朽ち果てる。それが理だ。
しかし彼はその理から外れた存在。古い呪いの類に掛けられ
ストリウスはずっと孤独に永遠を生きて来た。
肉体はいつの間にか老いることを忘れていた。
何時しか自分で生命の誕生を喜び、消滅を悲しむことも
忘れていた。
「こんなに古い文字を読めるの?」
初めて恋をした人間がいた。長い髪を持つ美しい女性だ。
細く、少し触れただけで壊れてしまいそうなほどに。
「ねぇねぇ、なんて書いてあるの?」
グイグイと来る彼女の姿勢にストリウスは負けてしまう。
少しずつ彼女と話す頻度が増えていた。
彼女と仲を深めてから数か月が経った頃、彼女は…
オフィーリアは核心をついて来た。
「貴方は、本当は何歳なの?」
口は勝手に動いた。誰かにバラす気など無かったのに。
不老不死など気味悪いだけ、人間と言っても化け物と変わらない。
そうやって何度も虐げられてきた。何度も何度も死ぬために
色々な事をしてきたが死ぬことは出来なかった。
やがて心を閉じて、自分を守るようになった。
「ずっと、そうやって生きていたの?」
「そうだ。ずっと一人で生きて来た」
「凄いね。私には想像も出来ないや。ねぇ、もっと
私を頼ってよ!ずっと一人で生きるなら、短い私の
一生分、私に貴方を独り占めさせて!!」
それはオフィーリアなりの告白だったのだ。
「だってストリウス、凄く顔も良くて、背も高い!
誰かに先取りされたら私の初恋は失恋で終わっちゃうもん」
オフィーリアの言動はストリウスにとって子どもそのもの
だったが、それに彼は救われていた。やっと会えた。
自分を人間として受け入れてくれる人に。
きっとまた、すぐに分かれてしまうかもしれないが、
それでも彼女と一緒にいたいと思った。
オフィーリアの腹の中に子どもが出来た。その時に
彼女はある事実を彼に告げた。
「長く、生きられないかもしれないんだ…でもね、
そんなに悲しまないで」
「怖くはないのか」
「怖いよ。でも大丈夫。この子はきっと大丈夫。
オズの人たちもいるし、貴方もいるから。だから約束」
小指を立てて見せるオフィーリア。その小指に
ストリウスは自身の小指を絡めた。
「私はずっとずっと愛してる。貴方も私とこの子をずっと
ずーっと愛してね」
「…当たり前だ」
次第に寝たきりになることが多くなった。
「もう、やっとこの子の前で笑ってくれた」
オフィーリアが微笑を浮かべて赤ん坊と戯れるストリウスに
言った。何故か彼はずっと娘を恐れて、赤ん坊を抱こうと
していなかったのだ。
「怖いんだ。もしもこの子が俺の秘密を知ったら、この子は
きっと苦しむんじゃないかって…」
「大丈夫よ。きっと大丈夫―」
オフィーリアが死んでから数日後、ストリウスも行方を
くらましてしまった。しかし彼の中から二人への愛情が消える
事は無い。




