18話「ずっと愛してる」
高熱を発し、倒れたドロシーを部屋のベッドに寝かせる。
荒い息をしつつ目を閉じるドロシーの身を案じるオルビスたちは
ただ彼女の近くにいることしかできない。
オフィーリア・マーテル。ドロシーの母親。
今、夢と現実の境目を歩くドロシーの前に彼女が姿を
現したのだ。
「フフッ、バルカン…バルカンって名乗ってるのね。ストリウスさん」
「やっぱり…お父さんだったんだね」
オフィーリアは微笑を浮かべた。
「あの人は不老不死。ずっと生きて来たの。何度も何度も人の死を
見続けて来た人…人を愛することを怖がる人…ここで話すお父さんの
ことは彼には内緒よ?」
オフィーリアは人差し指を口の前に充てる。
「“この永い生涯で初めて恋をした。貴方の事が好きだ。貴方が好きな
人間が大好きだ。どうか近くで貴方を支えさせてくれないか”…って、
告白してくれたの。とっても嬉しかった。結婚してから彼の秘密を知ったの。
人間だけど死ぬことも老いることも出来ないって…私も体が
弱かったから、すぐに死んじゃった。彼はきっとね、優しいから貴方を
自分から遠ざけたの」
ずっと容姿の変わらない奇妙な人間が父親。そんなことが周りに
知られたら平穏無事に生活できないかもしれない。そう考えて
バルカン…ストリウス自身が身を隠し、大事なドロシーを自身の
部下たちに預けた。国も全部。そうすればドロシーは真実を知らず
幸せでいられると信じて。
「もうすぐ夢から覚める時間ね。私の力も貴方にあげる。大好きな
ドロシーちゃん。ずっと愛してる―ストリウスさんと共に―」
目を開くと全員が揃って顔を覗かせていた。
「大丈夫か、ドロシー」
「熱も冷めて来たな。よしよし」
汗だくで眠っていたようだ。目を覚ますと拳聖たちに混じって
せっせと動いている女性がいた。一目で誰なのか分かった。
「おはようございます、ドロシー様。なんだかスッキリした
お顔をしておりますね」
「…グリンダ!!!」
「はい。ドロシー様の為の魔導人形グリンダです」
という何処か愛嬌のある挨拶をしたグリンダ。やっと長い眠りから
覚めたようだ。戦いは終わったようだ。ユベルたちが戻って来た。
「久しぶりだな、グリンダ」
「はい。お久しぶりですユベル」
「あ、ユベル。バルカンさんは…?」
「また必要な時があれば来るって。それと、ドロシー様の配下に
なりたいという悪魔が…」
「悪魔!?」
ユベルが扉を開ける。そこに立っていたのは執事のような
黒い悪魔だった。
「お初に目にかかります。貴方がドロシー様ですね?私は
ナハトと申します。以後お見知りおきを」
「は、はぁ…えっとバルカンさんに付いて行かないの?」
「その気満々だったのですが、彼に言われたのです。自分に
付いて行くよりもドロシー様に付いて行った方が楽しいぞ、と。
ですので、ここに来た次第です」
強い悪魔の仲間入りだ。新たな魔王の誕生、そして同時に新たな
勇者が現れた。公的に発表されることでは無いがその反応は
様々だ。