15話「久しぶりの男」
オズの国境付近まで来るとサルビアたちが出迎える。
「お帰りなさいませ、ドロシー様。そちらの方々は」
「こっちがフィネストラ公国のジェラート、そしてこっちが
もう今は面倒くさいから拳聖の二人ね。中に入っても良い?」
「はい。こちらは引き続き周囲の警備を」
サルビアたちがいなくなった後に結界の中に進んでいく。
怪我人たちの目に光が灯った。彼らは口々にドロシーの名を
告げるのだ。
幹部たちは全員、ボロボロの屋敷の前に集っていた。
「リーベ!ラージュ!」
二人を見てドロシーは心を痛めた。彼らが機械であることを
改めて思い知る。むき出しになった金属部分。腕や足を
犠牲に彼らは国民を守っていた。
「ごめん…ごめんね…私がもっと早く帰っていれば…」
「何故、謝る?ドロシーは誰かにここを襲わせることなんて
しないでしょ?」
ラージュが小首を傾げた。
「代わりなら幾らでも作れるだろ…と言っても納得しないよな。
でもな、俺たちはお前が無事で安心したよ。お前にもっと深い
心の傷を負わせずに済んだから」
リーベはポンポンとドロシーの頭をそっと叩く。涙をこらえて
ドロシーは笑顔を見せた。リーベは屋敷のほうを指さした。
「中で貴方を待っている方がいる。貴女だけを待っている
ようですよ」
リーベに言われて恐る恐る彼女は屋敷の中に入った。
その間のリーベ達。
彼らは怪我人の手当てに回っていた。
「そうだ、ヤナちゃんは…」
「彼女ならここよ」
カーラとベアトリスと行動を共にしていたヤナは無傷で
この中にいた。ヤナは笑顔をオルビスに向けた。
「被害はデカいな。死者がいないことは喜ばしいことだけど」
「ユベル」
辺りを見回しながらやって来たユベルは苦笑する。
「国民全員が命に別状は無いってのは奇跡だな」
「これは一方的な殺戮だ。そんな中、よく生き残れたな?
これ、対魔物用の結界だぞ?」
レグルスは淡い桃色の結界を指さす。その上からは緑色の
ドーム状の結界がある。
「緑色の結界で効果が中和されてるんだ。敵さんはどうやら
この結界の効果を知らないらしい」
「その効果は?」
ユベルの言葉にレグルスはそう返す。
「耐聖属性結界。グリンダの張ったこの結界では魔物の力を抑え込む
聖属性の結界などを中和できる。人間達の張る結界は自分たちを
強化するための結界では無いだろ?あくまでも人間のスペックは変わらない。
だからこの効果に気付くことが出来ない」
自分が結界により強化されていれば、その効果が中和されている
事に気付くことが出来ただろう。しかし彼らの使う結界はあくまで
魔物を弱めるための結界なので自分たちでは効果の大きさが分からないのだ。
「そのグリンダって奴はスゲェな。この範囲にそんな結界を張れるのか」
「グリンダは守りに特化した術が得意なんだ。今は眠りについているが
本能的に危機を察知したんだろうな」
屋敷内。ドロシーは椅子に腰かけて待ち構えていた男と対面する。
「何年ぶりかな、ドロシー。兄の娘」