13話「侵略開始」
「少し、移動しませんか」
シモン・レオンハートに言われて別室にやって来た。
この部屋はこのために用意されたらしい。
「フィネストラ公国の女王エミリア・フィネストラ様が
ご用意してくださったんですよ。貴方の事を聞いて」
「そうなんですか?」
「もしよかったら国交も結びたいと思っているそうですよ」
相手次第では考えるのも良いかもしれない。
名前はそれなりに広く伝わっているのだろうか。
「そうだ。少し、お前の国に関して気になる噂を聞いた―」
オズ…オズ連邦国は他の国と違って森の恵みが豊かだ。
そこから来る農作物などは定評があり、特産品と言う事にも
なっている。嬉しい事だ。それを妬ましく思い、独占しようと
考える強欲な王様もいる。
「では、魔物は神の敵ということで戦争を仕掛けるのは
どうでしょう?」
「さすれば他国も文句はあるまい」
老人たちは魔物の国を舐めている。彼等の手足となって
動いている青年はうんざりとしていた。彼の任務はこの
老人たちに仕えることでは無かった。
この国では無く、フィネストラ公国。潰れた孤児院で
彼は育った。どんなに汚いことでも行って来た彼らを
拾ったのは次期女王、そして現女王のエミリアだった。
「貴方たちは凄い力を持っているのよ。その力を自分の
為だけでなく他の人たちの為にも使って欲しいわ。
私と、私が守りたいこの国のために使いなさい」
衣食住全てが与えられた。その代わりに自分たちは
彼女の命令に従う。
ドロシーたちのいる部屋にコソコソとやって来たのは
従者を連れた女王のエミリアだった。
「初めまして、ドロシー・マーテル様」
「様付けはやめてください。私はそんなに偉い人じゃ
無いんで」
「もう遠慮しないでくださいな」
エミリアは椅子に座る。
「この子は従者のキャンディ、可愛い名前でしょ?他にも
ジェラートにショコラ、タルト、エクレアっているの」
「名前はエミリアさんが付けたんですか?」
「えぇ、皆孤児院で育ったの。その孤児院も無くなっちゃって
私が引き取った…で、もしかして聞いたかしら?」
頷く。シリウスから教えてもらった噂の事だ。
デフテラ王国によるオズへの戦争。それは許可されていない
身勝手な戦争だ。オズは魔物が住む国だがリコリス正教会なる
団体からは先の国王の交渉によって国として認められている。
それに彼は人間の盾となり、彼等と鏡のように接していくことを
誓っている。教会側が武力行使を許すとは思えないのだ。
「困ったものよねぇ。老人になるとすぐに欲が出るのかしら?
あんな風になるのは御免だわ」
「ですねぇ」
「と、いうことで…さぁ、入ってらっしゃい」
影移動という技術だ。それを利用して現れた青年は二人の前で片膝を
ついている。ジェラート、エミリアの配下の一人だ。
彼はデフテラ王国の諜報任務に就いていた。
「女王陛下の予想通り、デフテラ王国はオズへの軍事行動を
起こそうと考えております」
「やはり…そうだったのね…」
「既に奴らは動き出しております。奴らはオズの富を独占
することを目的としております」
そこもまた予想通りだった。
「でも、どうしよう…この手紙…」
「何ですか?これは」
「え?この国から直接送られて来たんだけど…」
「いいえ?私はドロシー様たちにこういった手紙は
送っていませんよ?確かに文は書き―ッ!!」
エミリアとドロシーの食い違い。これこそが相手の
狙い。国王であるドロシーをどうにか国から離す。
そうすることで力は削げるだろうと言う事だ。
「やられた…!!」