12話「剣聖との出会い」
馬車の中でリーベ達に名前を付けたのが自分だったことを
すっかり忘れていたことをオルビスに教えてみた。すると彼は
「なら、私に会ったことも覚えてなかったのですね」
「あれ?初対面じゃないの!?」
「違います。同じぐらいの時期に会ったことがありますよ。
他にも確かいたはずです。彼等も私たちと同じように
呼ばれているでしょう」
他にもいたのか。その人たちには申し訳ないが自分には
覚えがない。
オルビスとドロシーが降ろされた場所はフィネストラ公国の
王城前。そこから門を潜って中に入った。
「ここはおこちゃまの来る場所じゃねーぜェ~?」
心の中でドロシーは「うわぁ~…」と呟く。人選ミスなのでは、
と思ってしまうほど三下に見える男は数人の仲間を連れて
絡んできた。
「すみません、私たちは先を行きますね」
そそくさと逃げようとしたがすぐに阻まれてしまった。
「ガキが調子乗んなよ?」
「そう言われても、ねぇ…しょーもない大人の付き合いは
興味無いんで」
キッパリと言って再び足早に廊下を抜けていく。怒鳴り声を
上げながら走ってくる男たちが拳を振り上げて―
「うわっ!?なんだよ、こんな場所で良い大人が鬼ごっこか?」
「レグルス!?」
「オルビスさん!それにドロシーまで!やっぱりお前も呼ばれてたんだな」
レグルスと呼ばれた少年は歯を見せて笑った。男たちが動揺している。
小さな拳聖レグルス。男たちが逃げ出したのを見てスカッとしていたのは
ドロシーだった。
「来いよ。シリウスも来てるぜ」
ドロシーが返事をする前にレグルスは彼女を引っ張る。既に多くの
腕の立つ冒険家たちが集められている。集まったことへの感謝なのか
様々な料理が並べられていた。
一人だけ、異様な人物がいた。何が異様って冷たい雰囲気を
纏っている青年だからだ。
「…!ドロシーか。久しぶりだな」
「それが、どうにも覚えてないみたいだぜ」
「何?覚えてないのか」
ドロシーは困ったように頷く。
「構わない。なら改めて自己紹介をしたほうが良いか。俺は
シリウス・ヴェール、よろしく」
本当に会ったことがある人物だった。猶更、申し訳ない。
周りが覚えているのに自分だけ覚えていない、そしてその逆も
恥ずかしく思ってしまう。二人の拳聖と、拳聖になっても可笑しくない
実力を持つ武闘家がいることで周りからは目立って仕方がない。
「ヴェール家って言えば代々拳聖を産んできた一族だよな?」
「そうだな。そーだ、あの子は誰だ?」
その“あの子”とはドロシーの事だ。見覚えのない冒険家が
拳聖たちに囲まれている。どうかしているとでも言いたげだ。
そこに助け船を出したのがこの国が抱えている“剣聖”だった。
「あの方はアタランテ・マーテル殿の娘だ。彼女はテュポーンを
討伐している」
「剣聖シモン・レオンハート…!」
彼はドロシーの前に来ると一礼する。
「お初にお目にかかります。オズの二代目国主ドロシー様」