1話「オズの国主」
オズと名付けられた珍しい多種族国家。
そこに新たな国主が現れた。それが人間のドロシー・マーテルだ。
母は病死、父は母にも娘にも愛を注いでいたが突如生死不明。
そんな中で育ったにもかかわらず真っ直ぐに育った理由は
環境だった。
両親に代わって子育てをしたのは幹部たちだったのだ。
「魔物ってそんなに年は取らないの?」
ドロシーの疑問は尤もだ。10年近く経っているにも関わらず
あまり大きな変化はない。
「変わる種族だっていますよ。先の戦いでつい最近まで時間が止められて
いましたので。まぁ、俺はそんなに変わらないと思うけど」
そう語った青年の容姿は実年齢に似合わない若々しい肉体を
持っている。実年齢、少なくとも100歳。
吸血鬼と人間のハーフであるダンピーラ、ユベル・エルンスト。
「ユベル、100歳だもんね」
「そうですね。…もしかして馬鹿にしてます?」
「してないしてない」
ドロシーは少し哀し気な表情を見せた。
「グリンダは…」
グリンダ。その名前を聞きユベルも少し表情を歪めた。グリンダという女は
人間でも魔物でも無い。先の国王ストリウスが作り出した魔導人形だ。
魔導人形は何人か存在しているがグリンダはどうやら特殊らしい。
「まだ目覚めていないようです。気長に待ちましょう、貴方が彼女を
信じてあげなければ彼女は喜ばないと思いますよ」
「…そうだね。そうだよね」
魔導人形たちは行方をくらましているストリウスとどこかしらが繋がっている。
彼らが普通に動いているのであればストリウスも生きているという証拠だという。
グリンダは彼と繋がっていないのだろう。だからこそ特殊。
骨を踏み抜き歩き出した男がいた。
「骸を潰して歩かない方が良いと思うけど…地獄に堕ちても知らないぞ」
「ゲヘナ。俺はとっくに立派な大罪人だから、今更徳を積んでも
地獄に堕ちるよ」
ゲヘナと呼ばれた青年は溜息を吐いた。
「娘に会うつもりも無いのか」
「今のところは」
「可哀想な娘だな」
「俺がいなくても他に頼れる奴がいるからな」
「父親の癖に子どもの世話は他人任せかよ」
諦めた。この男は今のところは娘に会うつもりはないという。
男と因縁のある者にゲヘナを含めた者達は玩具にされていた。
平穏に暮らしていた人間が今では人間が恐れる怪物になったのだ。
「娘が国王になったんだってな。おめでとうさん」
オズという国の新しい王、ドロシー。彼女が現在、どのくらい大きく
なっていてどんな性格になっているのか男も分からない。