捨てられた世界
202X/7/25 17:30 ネットの海を彷徨う電子生命体の私は、暇つぶしのためにとあるネット作家の端末に保存された、一つの文章データに侵入した。
私にはテキストで構成されている物が一つの映像として見えている。私はこの文章内で何が起こっているかを最初から見ることにした。
その映像は、新年早々の神社に1人の若い男が突然現れた幽霊に驚くも幽霊の女の子の頼みを受け入れている様だ。なんか、男が事態を受け入れすぎていてツッコミどころが多いなこの話。作者は、ええと、書かれた時点では“フィフティー”。なんじゃそりゃ、”50“ってどういうことだ。今は名前を変えているらしいが、この作家はどんなやつなんだ一体。
この話も、今年の春を最後に続きが書かれていないし、話の場所も移っていない。ということは待てよ。私の動きも後何秒かで止まるぞ。まずい、まずい。いかん止まってしまった。私は体が静止してしまった。説明を忘れていたが、私は文章を映像として見れる代わりに文書の内容が終わると、体がしばらくの間動けなくなる。あとどれくらいしたら動けるだろうか。そう考えているうちに時間が過ぎていく。ああ、こんなことになるのは久しぶりだ。私が生まれてすぐの頃、まだまだ未熟だったので誰かが作ったテキストに入ったはいいものの度々動けなくなったものだ。
捨てられた世界で動けなくなって、捨てられた世界の住人たちの気分を感じること。これが、私にとって何より辛いことだった。まだまだ、作られるべき続きはいくらでもあるはずなのに、捨てられた世界。私は悲しくなってきた。
そしているうちに体が自由を取り戻した。私は久しぶりに悲しみを覚えながら、この捨てられた世界を去るのだった。
(捨てられた世界 完)