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第9話


午後からテイルと町に繰り出すことにした。

気持ちの良い澄み切った青空を見上げながら、まずは腹ごしらえかなと、隣でぐうっとお腹を鳴らしているテイルの様子を見て思うのであった。


回復魔術は燃費が悪くお腹が減るのかな。

テイルは小柄ながらも、付いている所はしっかりと付いている。とても健康的な身体つきだ。


巨乳と呼ぶには少し心許ないが、いやしかし、バランスというものは大切なのである。


手にすっぽりと収まりそうなそのサイズ感は、守ってやりたいという庇護欲を掻き立てられてしまう。


そう、これはこれで一つの完成形と言えよう。過ぎたるは及ばざるが如し、大きすぎても持て余してしまう。身の丈に合わない財産を手に入れた者の末路は概ね同じようなものだ。


そして腹ぺこテイルちゃんがこのままでは不憫なので、腹ごしらえの為にたどり着いた先が【武器屋】である。


武器屋で何を食うんだと思われるかもしれない。しかしこの村の武器屋は昔から食堂も兼業しており、村の肉体労働者のオアシスとして親しまれてる。


もちろん飯もうまいのだが皆の目当てはそう、オアシスに咲き誇る一輪の麗華。

武器屋の看板娘、エリーさんである。


かくいう俺も毎晩のようにお世話になっているエリーさん。

何を隠そう、この世界は夜の欲望を満たす為の媒体が存在しないのだ!本もネットも無い。


したがって村の男たちなどここへ来ては、エリーさんの胸元へ視線を張り付かせ、その撓に穣った二房の果実をじっくりと目で堪能し、さらさらに揺れる煌びやかな金髪から漂わせる、それはヴァルハラに咲く花畑を春風が優しく撫でていく様な芳醇な香りまでもを、己の想像力を限界まで研ぎ澄まし、記憶という名のフィルムに焼き付け帰っていくのだ、そして今晩の慰みものにするのである。


エリーさんのたわわっぷりといえば、前世でもお目にかかったことが無い程である。


どう表現したら良いのかと、これ程困ることは無い。

絵師さんが居たらどんなにも素晴らしいだろうと、無いものねだりをしていても仕方がない。


ひと言でいえば、溢れている。溢れているのだ。


このように巨大でありながら、決して損なわれることのないそのプロポーションは正に奇跡と形容しても過言ではない。神が造り賜うた美の極致であろうか。


しかも、こんなけしからん身体をしておいて彼女はおっとり系のお姉さんというのがまた、たまらないのである。


そういえば、ヒロインの身体的描写には数行しか使わなかったくせにと言われそうなので、この辺で思考を切り替えよう。


料理を運ぶのが仕事のエリーさんは、まさか自分までおかずになっている事は露も知らず、いつも通りのにこやかな笑顔で、席に着いた俺たちの注文を取りに来てくれた。



「あらあら、まあルースさん。いらっしゃいませ、ようこそ武器屋へ。いつもうちに食べに来てくれてありがとうございます。今日はかわいいガールフレンドも一緒ね。こんにちはテイルさん。」


「えへへ、こんにちは。」


『こんにちはエリーさん。麗しいそのお姿を見たくて、今日も来てしまいましたよ。』


「あらまあ、ありがとうございますルースさん。でも、彼女の前でお世辞でも他の女性を口説いてはいけませんよ?」


「わたし、ルースの彼女?」


『いやはや、これは一本取られました。俺はお世辞なんか言いません。エリーさんの美しさに見惚れていたのは事実ですよ、テイルと俺は小隊の仲間。恋仲ではありませんが、他の人から見て俺たちがそのように映るのは光栄なことですよ。こんなに可愛らしい女の子の彼氏に見えるのですから。』


「えへへ。えへへへ。」


「あらあら、まあまあ。ありがとうございます。ルースさんはいつもどこかで女の子を喜ばせているのね。でも、いつもみんなに良い顔をしていたら、いつか何処かで本当に大切な人が出来た時に振り向かせられないですよ。女の子は愛を独り占めしたいのですもの。うふふ。」


『肝に銘じておきましょう。エリーさん、見てのとおりテイルが腹ペコなもので、いつものやつお願いできますか。』


「えへへ。お腹すいた!」


「かしこまりました。武器屋スペシャルランチセット15人前ですね?ルースさんはどうします?」


『俺は、パンケーキと珈琲でお願いします。』


「うふふ、はい。しばらくお待ちくださいませ。」



エリーさんは隙がありそうで意外に身持ちが固そうである。


一方、可愛らしいの言葉がそんなに嬉しかったのか、黒く綺麗なポニーテールを左右に振りながらご機嫌な様子で鼻歌を歌うテイル。放っておけないタイプである。




そして料理を待つ迄の間、昨日の事を振り返る。


そもそもダンジョンとは何か?モンスターとは何か?魔力とは何だ?魔族とは何?


この世界の人々はダンジョンに潜り、モンスターを倒すことで魔力を得ることができ、レベルを上げていく。

しかし、なぜそんな強くなる為に都合の良い仕組みが存在するのか。


この世界にはそういった疑問を持つ人がいない。

正確にはまだ出会っていない、だが。

誰も彼もが物心ついてから、当たり前にこの事実を受け入れている。


王国の研究者も、効率的なダンジョンの攻略方法や、魔力保有量の多いモンスターの研究はするのに、

その成り立ちや仕組みを解明しようとしない。思い付きもしないのだ。


俺は転生した直後から、この事について疑問を持っていた。

しかし、いくら誰にそういう話をしても、誰も理解ができないのである。


それまで普通に会話をしていた人も、俺がダンジョンとは何か。なぜモンスターを倒すと魔力を吸収するのか。そもそも魔力とは何なんだ?と質問を投げかけた途端に、急に会話が成立しなくなる。


何故かそういった話題の事を考えようとすると、急にバグが発生したコンピュータの様に珍紛漢紛な答えしか戻って来なくなってしまう。それはクリス教官ですら同様である。


理由は皆目見当もつかないが、俺は人族全体が何か大きな力で精神を操作されているんじゃないか。

転生者の俺だけは、その枷から外れていて、所謂イレギュラーだから、世界のシステムに疑問を持てるのではないかと考える様になった。


それと同時に、どうしようもなく怖い気持ちになるのだ。

この世界の人々は実はすべて感情や心を持たないNPCのような存在であり、システムによって動かされているだけで、生きた心を宿しているのは俺たった一人なのでは?そしたら、俺はこの世界でずっと孤独なのではないか。なぜこんな世界に俺は居るのだろうと。


哲学的ゾンビの思考実験の様な薄気味悪さを覚え、これ以上考えてもきっと俺の精神には良くない事だろうとも思い、最近では敢えて思考の外にこの考えを追いやっていた。しかしそろそろ踏み込まないといけないだろう。



転生者=勇者。

転移か転生か、そんな概念の違いは取り敢えず置いておいて、

この世界には俺以外にも極少数であるが、そう呼ばれる人々が存在する。


外の世界から人の魂という名のエネルギーをこの世界に呼び込むと言われる召喚魔術。

この世界にやってきた魂は、人族の誰かの魂と融合する。

そうして、膨大な魔力を持った勇者が誕生するのだ。

という事は、俺以外の勇者達も前世の記憶を持ち、この世界について俺と同じ疑問を持っているのではないか。もしそうなら、是非確かめてみたい。


前世の記憶について、他者から質問をされる事は今まで無かった。

俺も敢えて聞かれないなら、自分からは話さない方が良いだろうと判断し、今まで誰にも打ち明けたことは無い。

もしかしたら、前世などという概念自体がこの世界には無く、他の勇者たちは皆前世の記憶など持ち合わせていない可能性も否定できない。


そうなったらいよいよ俺はイレギュラー確定となるのだが、足踏みはしていられない。

賽の目は振らなければ出ないのだ。怖さもあるが、確かめたいという気持ちが今は強い。


俺は孤独ではないと安心したいのだろう。

いくら勇者ともてはやされようとも、所詮凡人の心しか持ち合わせていない俺は、そこに縋りたいのだ。


この広大な世界で精々、数十人しか存在しない勇者。

ここは交通網もインフラも整っていない、中世のヨーロッパのような世界である。


生まれてから死ぬまで村から出ないなど当たり前だ。

そんな中で、今まで他の勇者と出会う機会など皆無だった。

しかし、これからは違う。軍人となり勇者となり、王都へも行くだろう。

その中で一歩ずつ目的には近づけるはずだ。


自身の異常なレベルアップ速度の事も、複数のスキル所有も気にはなっている。


おそらくこのまま戦い続ければ、レベルインフレして、スキルの数だけで文字数を稼げてしまう様な事態になるだろうと想像に容易い。


強くなれるに越したことは無い。自分も仲間も守れるのだから。


しかしまあ、俺だけ異常に強くなっていくという事は、俺にだけ訪れる過酷な試練があったり、ラスボスを倒さないといけない様な、所謂主人公ルートが待っているのがお約束なのだ。

正直魔王討伐など柄ではない。


魔族に故郷を蹂躙され、大切な人の命を奪われたこともない。

ここ数百年は魔族も活動が活発ではなく、魔族の領土に踏み込んだ勇者達と交戦するか、人族との境界付近に砦を建設する事しかしていない。実際俺は、魔族に恨みも持っていない。

他の人族もそうだろうが、何故か人々は魔族を憎み滅ぼす為に全ての国民が団結している。


こういう世界は、人同士の争いに巻き込まれながら魔族とも戦う勇者が相場だと思っていたのだが、

全ての人が争いもせずに団結しているなんて前世の歴史を振り返っても、只の一度も無かった筈だ。


本当に魔族と言うのはどんな存在なのだろう。

少なくとも国として機能し、防衛線を維持する程の知能と組織力持っている訳で、理屈の通じない、ヒャッハーな蹂躙バーサーカー種族だとは考えにくい。何せ出会った事もない相手だから、憶測しか立てられない訳だが。


そんないまいち、現実として受け入れきれないような世界で、

重たいだけの宿命とやらを背負わされそうなフラグが立ちまくっているのは些か迷惑な話ではないか。


俺としては王道な主人公ルートじゃなく、最終回まで絶対に死なない、読者に安心感を与えるひょうきんな相棒役あたりの役が回ってくるのを切に所望するのであった…。

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