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第7話

「!魔力の異常放出を確認。王国領です。」


「…勇者か?」


「はい、おそらく新たな勇者が覚醒したと…、え?なによこれ?波形が逆転…ま、まさか、ハイヒューマン!!ものすごい数値です。いやでも、何故王国領で?今このレベルで覚醒しているのは潜伏中のサマエルだけ…。いえっ!まさかっ!まさか。」


「……とうとう目覚めおったか。全軍に通達、現時点を以て作戦を第二段階へ移行!王国領への侵攻レベルを引き上げるぞ。残りの堕天八柱フォールズのコールドスリープを解除せよ。ベリアルよ、ここは任せた。余も仕上げに向かうとしよう。」


「は!お任せください。」





意識が…薄れてゆく。

あれ?俺…なにしてるんだ…っけ。


「止血!急いで!心肺蘇生開始。一定のペースで絶え間なく。出血部分は縛りつけながら直接抑えて。ああもう、こんなことにならない為にあたしがいるっていうのに。ルーちゃんの動きに反応できずに、ボケっと突っ立ったままで、なんて役立たずなの。このままじゃ人族の希望を無駄死にさせてしまうわ。いえ、それ以前にルーちゃん本人になんて詫びればいいのよ!ルーちゃん!しなないでえええん!」


クリスと兵たちによる懸命な応急処置の甲斐なく、ルースの容態はどんどん悪くなっていく。

とそんな時に。


「大丈夫、教官。魔力溜まったよ。こんな時の為にいるの、私も同じ。」

「テイルちゃん?」

「そのままルース抑えてて。ルースは、私がまもる。いくよ、超再生回復魔術メガ・ヒール



すると、ルースの全身が緑色の淡く優しい光に包まれていった。

回復魔術を初めて目の当たりにした一同は、その幻想的な光景に目を奪われる。

しかしそれもつかの間、その後起こった事に対し驚愕のあまり応急措置もそっちのけで、

ただ茫然と佇むしかなかったのである。


「う、腕がはえてくるわあん。信じられない。傷を塞いだり、軽度の病を癒したりできる。というのが回復術師の能力だと伝えられていたのに。こんな能力、王国の歴史を遡っても聞いたことないわよぉ。テイルちゃん…あなた一体。」


「うん、私も最初は軽いけがを治すくらいしか出来なかった。でも、村の治療院でいろんな人治療してるうちに力、強くなっていったの。以前、村で崖崩れが起きて、それに巻き込まれた人ほとんど助からないと思った。息してないし、内臓も飛び出してた。でもどうしても助けたくて、必死でヒールかけ続けた。そしたらなぜかこうなった。」


「一番大事な部分があやふやだけれどおぉ。でもテイルちゃん、この力はすごいわよおおん。ルーちゃんの腕も、初めから怪我なんかしてなかったみたいに元通りよおん。」


「失った血もとに戻ってるはず。あとは安静にしてあげれば自然に目覚める。」


「そうねえん。あなたにもルーちゃんにも沢山聞きたいことはあるけどおん、ひとまずは村に戻ってルーちゃんの回復をまちましょおおん。テイルちゃん、ルーちゃんを助けてくれて本当にありがとおおん。女の子じゃなかたら、抱いてあげてたわあん。」


「うん。えへへ。」





目を覚ますと、知らない天井…

いやいつも見ている俺の部屋の知ってる天井だった。

どうやら丸一晩眠っていたらしい。外からは眩しい朝陽が差し込んでいる。

小鳥達の声と、活気づいた村の朝仕事に勤しむみんなの声が聞こえてくる。

俺がこの村で一番好きな時間だ。

ううーーんと頭の上で背伸びをしていて、はたと。

あれ?確かおれの腕って千切れて消えてしまったはずじゃ?

腕は普通にあるし、縫合したような跡もなければ、そもそも痛みもない。

あれ?実は腕なんか千切れて無くて、俺の夢だったのか??


そんな俺のことを一晩中心配していた母さんが、様子を見に入ってきた。

そして事の顛末を話してくれて納得したのだ。

よかった。このまま腕がないままだったら、もう武器屋のエリーさんと妄想の中でよろしくできなかったところだ。右手が疼いてきやがる。

もう大丈夫だよ伝えると、母さんは安心して瞳を潤ませながら、そのまま教官を呼びに行ってくれた。

いつもは気丈に接してくれる母も、ダンジョン内での出来事を聞いて気が気じゃなかったらしい。


それにしても、昨日一日で大変な目にあった。

俺が気を失うまでの出来事は、自分でも意外なくらいはっきり覚えている。

それにしても母さんから聞いて驚いたのは、テイルの回復魔法である。

これについてはクリス教官も度肝を抜かれたらしく、歴代最強勇者と最強回復術師を同時に育てられるとはしゃいでいたそうだ。あんなことがあったのに、回復が可能とわかるや否やこの切り替えとは、逞しい限りである。さすが人族最強のオカマだ。


さてさて、俺もその強靭なメンタルを見習わなきゃな。

くよくよして一向に話が進まない、あるいは難聴鈍感すぎてヒロインたちを振り回す、

そんな読者にストレスしか与えないクソ主人公では無いのだ。俺は、決して。


「あああああん!ルーちゃん。ほんとうううによかったわああん。これならその元気な両腕で、私の愛をすべて受け止めてくれるのねええん!!んまああ!抱いてちょうだい!」


「…ああ、教官おはようございます。昨日の疲れでなんだかぼうっとしちゃって。なんだか耳も遠くて。ごめんなさい、今なんておっしゃいました?」


「あああーーーーん。この難聴系主人公めぇ!乙女のハートを弄ばれちゃうのよ!!」


使い分けは大事なのである。

ヒロインの見せ場が、オカマに食われ続けるのです。

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