第5話
幼いルースの記憶によれば、
孤児だった俺は、当時王都のスラムにある孤児院で幼少期を過ごし、
物心ついたころに今の両親に拾われたそうだ。
その後はハジメ村に移住し何不自由なく育ててもらえたみたいで、
こんな世界にも関わらず俺を拾い育ててくれた両親には感謝している。
幼いルースの魂と、前の世界の魂が融合したのは、
両親と暮らし始めて三年ほど経った頃だった。
前世?の記憶もはっきりしてない部分はあるのだが、
何というか具体的な名称などは覚えていなくても、
経験値として自分の中に刻まれているものが確かにあり、
それが年相応でない俺の精神を形作っていった。
他にも転移者がいるらしいと知った時には、
どんなものか知りたかったが、
ネットやテレビもないこの世界で
数百万分の一、もしくはもっと少ない確率で、
発生している事象について、
庶民の俺が知りえることなど何もなかったのである。
そんな俺に転機が訪れたのは、
村で10歳を迎えた子供が集められ行う健康診断。
王都から派遣された医師団によって行われる。
というか今思えば転移者探しだったのだろう。
その時、鑑定石で現れた、
【成長加速∞】
当時村では、とうとう勇者が現れたと、
医師たちも他の住民もみんなでお祭り騒ぎになった。
スキルが現れるとは即ち勇者の証。
俺も見るからにチートなこの能力に、悪い気はしなかったのだが、
そんな俺のことを見つめる、母さんと父さんの顔には、
悲しいような、辛いようなそんな影が差し込んだような気がした。
「ルーちゃんがぁ強くなる方法はただ一つなのぉ。それはただひたすらにレベルをあげることよおおんん。」
そう、やり込みゲーなのである。
普通の人間は、レベルを上げると共に剣技や魔法の技術の向上の為、
時間をかけて研鑽を積む。
しかし、これはレベリングが頭打ちになっしまう人族の悪あがきのようなもので、
どんなにレベリングしても、1000迄届けば人類最強クラスであり
それ以上のレベルアップを望むとなると、
人族のテリトリーに存在するモンスターを倒すだけでは不足なのだ。
ではどうするか。答えは、魔族領に蔓延る超高レベルのモンスターを狩るのだ。
しかし敵の懐で常に魔族に監視されている状態で。
当たり前だろう、自分の庭で敵が成長するのを黙って見過ごす阿呆など現実には居やしない。
そんな中で遥か格上のモンスターを狩り続けることなど不可能である。
ありえないのである。
このオカマゴリラ以外は。
しかし勇者となると、スタートがそもそも違う。
しかもレベル上昇速度が普通の人族の比ではない。
10倍以上、いや中には100倍を超える速度でレベルが上がっていく者も存在する
スタートの状態ですでに、人族の限界点に届いた状態なのである。
それであればと、少数精鋭にて魔族領に乗り込み、
境界線ギリギリのところでヒット&アウェイを繰り返しシコシコレベルを上げようぜ!
が今の王国が固めている方針である。
レベルが際限なく上がるのはそのまま強さ、速さ、硬さが上昇し続ける事。
技術を磨く時間があれば、ガンガンモンスターを倒してレベル上げよう。
その方が強くなるんだから。と人族は考えた。
つまり勇者とは、アクションゲームの世界で
孤独にやり込みレベリングで強くなれるRPGキャラである訳だ。
先ほどレベルの上昇速度と言ったが、
お気づきであろう、
俺のスキル【成長加速∞】である。
今までこのようなスキルを持った勇者は出現しなかった。
常人の100倍を超える速さで成長していった勇者でさえも、
スキルは他のものであったという。
それ故、俺には今までに無い程、
人族の期待を背負っている訳だ。
歴代最速で最強の勇者になろう!
というのが俺に課せられている任務だ。
勇者は成人したと同時に、
魔族討伐に向けて訓練が始まる。
なぜもっと早くからやらないのか?
実は、成長期に無理な訓練を受けさせ、身体を壊すよりも。
健康に成人を迎え、そこからレベリングした方が上昇率が良いという事が
判明したからである。
成人するまでは大切に大切に、家族と国のサポートを受けて暮らすのだ。
しかしこれはあくまで勇者のことを言っているので、一般的な人族は
早ければ幼少期から研鑽やレベリングを積むのである。
研鑽中に命を落とすことなど日常茶飯事であろう。
ここまで聞くと、
チート持ちの温室育ちの勇者など
一般市民から妬みや嫉みを受けそうなものと想像も容易かろうが、
実際はそうではない。
勇者持ちと判明した時点で、将来勇者軍に加わることが運命づけられる。
一般的な人族は、昔と違い徴兵制度はなく、
現在は特殊な人間を除き、戦うのはみな職業軍人である。
そう、職業の選択に自由があるだ。
即ち人族の将来を背負うが故に人々は俺たち勇者に敬意をもって接してくれる。
生存率。
勇者の目的は何だ?
そう、魔王の討伐と魔族の根絶である。
この数千年決着がつかない戦争において、
この崇高なる目的を果たせた勇者は、
もちろん一人として存在しない。
皆魔族との闘いで命を落とすか、
運が良ければ現役を勤め上げ、その後
後進育成に努めるものもいる。
そんな俺たち勇者は、
成人後は、人生の文字通り総てを、
魔族討伐に捧げなければならない…
ああ、考えすぎて少し気が重くなってきたな、
「ルース、また難しい顔。平気?あ、あそこ、モンスター」
『すまないテイル。敵の前で油断してしまった。せっかく悩むなら今夜のエリーさんとのシチュエーションについて吟味するべきだったよ。』
「よくわからない。けどいつものルースに戻った。えへへ。」
「よおおおしぃ。それじゃあルーちゃんのデビュー戦いくわよお!まず何も教えないから好きなようにやってみなさいぃ。ほかのメンバーはすぐ動けるようにしたまま待機よぉん!」
『ありがとうございます!いきます!!』
考えるのも飽きたし、それじゃあやってみますか。