第1話
しょ、処女作なんだからね!
蒼くかがやく…。
嗚呼、どうして。
また零れ落ちてしまうあなた…。
幾億の星々を幾億の夜をもって数えきり、
儚き人の天命を幾千繰り返そうとも
嗚呼、どうして…
…迎えにきてね
…迎えに行きます
『…っ。うぅうう。…また、この夢。一体何なんだろうか。』
うっすらと目を覚ます。
この夢見の後はいつも頭が痛いんだよな。
でもそんな日に限って。
「ルース!ほらルース。もう朝よっ。早く起きなさいよ」
『今日も俺を起こして、もう!早く朝ごはん食べないと遅刻しちゃうんだから!って、、つ、ついでなんだから。私の朝ごはん作るついでなんだから、かか勘違いしないでよねっ!ってかいがいしく俺に好意を寄せる金髪ツインテールのおさなな…』
「一人で何言ってんのあんた。毎朝寝ぼけて、今日からダンジョンデビューでしょ?早く食べて行ってらっしゃいな。先に仕事に出るわよ!あ、あとお母さん今夜は遅くなるから夕飯は自分で食べておいてね!」
『はーい。行ってらっしゃい』
…俺の名はルース。
今日から初めてダンジョン攻略に参加するんだが。
先に言っておこう。
何を隠そう、この俺は異世界からの転移者である。
正確には向こうで大学生だった俺の魂が
こっちの幼いルースの魂と融合してから10年
今は18歳として成人の仲間入りを果たしたわけで、
つまり前世の記憶を思い出したルースともいえよう。
安心してほしい。
おそらく今後お互いの魂がなんやらかんやらで
どちらかが消滅するとか、そんな重い展開はないだろう。
なぜなら、前の世界の魂とルースの魂はうまく折り合いをつけて
一つに融合しているし、そのおかげでこの世界に違和感を感じることもない。
つまり相性が良いのだ!
しかし、前世の記憶が部分的に欠損していたりする。
例えば名前や住所。
自分の記憶として映像が残るがそれに付随するテキストがない感じだ
まあ、それでいまの生活に困るという事はない。
それよりもこの世界、困ったことが一つある。
そうこの世界、もう何千年も戦争が続いているのだ。
前の世界でもどこかしらで戦争は常に起こっていたが、こっちは桁が違う。
なんせこの世界を真っ二つにして人類VS魔族なのだ。
なんというハイファンタジー。
人が人として自我を持つ限り、他者との対立は決してなくなることは無いかもしれない。
しかし相手は人を餌かゴミくらいにしか思ってないと言われている魔族であり、
和平という選択が初めから無いのである。
この戦争、領土や資源の奪い合いではなく、外交の手段でもない。
ただひたすらに殲滅戦を何千年と続けているので、さすがに人族も魔族も疲弊しており
現在では、お互い少数の特級戦力同士で戦うことがトレンドとなっている。
まあ、魔族は初めから絶対数が人族より圧倒的に少ないんだけど、
その分魔族一人ひとりの力は、人族の戦略級兵器に相当する。
そんな魔族に対抗するため、過去の人族は物量で勝負していた。
しかし、産めども増やせども、バンバン死んでいくのでいうなればコストがかかるのだ。
そこで人類は、他次元の世界からエネルギーを取り出す魔術を編み出した
月から降り注ぐ魔力で次元の壁に穴を空ける。
こちらの世界は度重なる争いや魔力枯渇により、エネルギーが足りないそうで
そんなところに穴が開くと、浸透圧よろしく壁の向こうから
エネルギーが流れてくるんだとか。
そのエネルギーとやらは、人の魂としての形をとり、
この世界に顕現するらしい。
そうなのだ、お察しのとおり俺の魂は
召喚魔術により、この世界にやってきて
そして、ルースの魂と結びついたと言える。
俺以外にもそんな人間が世界中に一定数生まれる。
というのが、現在の通説である。
そんなちょっと人と違う性質を持ってしまった俺なので、
もちろんエネルギー量が常人の比較ではないのである。
つまり強いのだ。どのくらいかといえば、
通常の武器を装備し訓練を受けた兵士数十人を目の前にし、
素手で渡り合えるほどである。
そんな彼らを人類は希望と期待を込め『勇者』と名付けた。
何もせずにこれなので、増長して力を私利私欲の為に振りかざいてしまう若者も中にはいる。
基本的に勇者持ちの人間は自重できる理性的な人間が多い傾向らしいが。
そして人族唯一の国家、
アレク王国は、世界中に生まれるそんな人間を管理するため組織、【勇者軍】を設立し
人類の特級戦力を育てている。
成人した俺も今日から勇者軍所属となり
訓練としてダンジョンに向かうのである。