17.生き方
「大福頑張るのよ!」
大福(?)はカナタさんの指示に合わせて跳んだり跳ねたりし始めた。
カナタさんが手を叩くと、彼女の周りをグルグル跳び回り、口笛を吹くと丸まって客の間を転がった。簡単な芸だった。でも、この世界の人には珍しいらしくみんな歓声を上げ、手を叩いた。一通りやるとカナタさんはお辞儀をした。隣で大福がお辞儀をするように首を垂れた。
見ていた人たちは何かをたくさん投げてきた。カナタさんと一緒に拾うと、その何かの正体は硬貨だった。
(こんなに沢山……?)
拾い終わるとカナタさんは再び声を張り上げた。
「みんな、ありがとー!お礼にアカペラだけど歌っちゃいまーす!」
(え?歌う?)
カナタさんは「んっんっ。」と咳ばらいをすると歌い始めた。
(どうせ、素人芸でしょ……。)
そう思っていた私は彼女の歌声を聞いてハッとした。その歌いこまれた歌声に圧倒されたのだ。帰りかけていた人々も次々に戻ってくる。それだけ人を引き付けるような歌声だった。歌っていたのは知らない外国の曲だった。曲の内容は英語でほとんど分からないのに何故か泣きそうになってしまう。それは歌が「love」をたくさん使うハッピーエンドの恋愛曲なのに、彼女の声が寂しそうだったからなのか、歌わずにはいられない彼女の辛い記憶がチラッと見えたからなのか、自分にもよくわからなかった。
「目指してたのよ、歌手。歌が好きだったから……。」
歌い終わって再び硬貨を集めている最中に唐突にカナタさんがそう言った。
「童話の世界ってさ、誰もが幸せになれるわけじゃないじゃん。誰かが幸せになる裏で、誰かが泣いている。それの繰り返し……。だから、せめてさ歌い続けようと思うの。少しでも多くの人が私の歌で誰かが幸せになってくれれば嬉しいでしょ。」
そう言ってカナタさんはまぶしいくらい微笑んだ。