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am 8:05

 ――ガタン


 課長は、突然席を立った。


「ど、どうされたんですか?!」


「あ……いや。こうなったら、近くのコンビニで、間に合わせのネクタイを買ってくるよ」


「ええっ!」


 ダメです! このフロアは企画室と資料室しかないから、他部署の社員と会う可能性は低いけど、エレベーターだって、社外だって、誰に見られるか分からないのにっ!

 ……と、言えたら、どんなに楽だろう。


「課長。私が行って来ます。皆から、何か連絡があっても困りますので!」


「美原さん、プレゼンの準備のために、わざわざ早く出社したんだろ。それは申し訳ないよ」


 ああ。こういう人だから、何とか庇いたくなるんです。

 自然と微笑んで、私は立ち上がっていた。


「いいえ。きっと、虫の知らせだったんですよ」


 これは本心。だって、普段の私なら皆と同じ。今頃、電車で缶詰めになっていた筈だ。


「ありがとう。じゃあ、頼むよ。君も、何か買って良いからね」


 そう言って課長は、私に5000円札を渡した。


-*-*-*-


 これは、チャンスかもしれない。

 ネクタイを渡す時に、一緒にメモを入れたらどうだろう?

 口では言えないけれど、文字なら、きっと――。


 ロッカールームに寄って、上着におサイフとスマホを突っ込む。ナイスアイデアの予感に、イソイソとエレベーターに向かう。到着を待つ間に、ここまでの経緯をLINEに報告した。


『うーん。文字って、結構ストレートかも』


『ナナちゃん、何て書くつもり?』


 皆、事態を案じていたようで、すぐにコメントが上がる。


『え、髪ズレてます、って』


『うわ……それじゃ、ダイレクトに言うのと変わんないよ』


 ――チーン


 エレベーターの扉が開いた音に、軽く凹んだ。


 ダメか……。

 私は焦り過ぎて、冷静さを欠いているのかもしれない。ちょっと頭を冷やしてこよう。


-*-*-*-


 会社の隣のビルの1階にあるコンビニは、通勤時間帯だからそれなりに混んでいるものの、通路でお客同士がすれ違うことは出来る。やっぱり、電車が止まっている影響はあるのだろう。

 ビジネス街にあるコンビニでは、ネクタイ始め靴下やインナーも売っている。間に合わせの1、2種類くらいかと高をくくっていたけれど、ネクタイだけで10種類もある。品揃えがあるということは、それなりに需要があるに違いない。

 課長が今朝着けてきたネクタイに似た、地色がブルーのストライプ柄を選ぶ。値段は約2000円。でも安っぽくはないし、生地もしっかりしている。感心しながらカゴに入れ、私は言い訳程度にスイーツをご馳走になろうかと思った。別に無くてもいいのだけれど――お使いを買って出た手前、何も買わないと、反って課長に気を遣わせてしまう。


「へぇ……『全国ご当地スイーツフェア』かぁ」


 最近のコンビニスイーツは、和洋充実している。下手な専門店顔負けのクオリティで、手頃なお値段だから、ついつい帰宅途中に買うことがある。でも、コンビニの系列が違うと、扱う商品ラインナップも全然違って面白い。

 オレンジや黄色、緑に茶色――カラフルなスイーツを見ながら、どれにしようかちょっと迷う。あ、こんな悠長なことしてる場合じゃなかった。とりあえず選ばなくちゃ……。


「――あっ」


 スイーツコーナーで、短く固まった。そして、私は次々とスイーツをカゴに入れたのだった。


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