ある小春日和に…
「どうして早く来ませんでした?ま。手遅れというまでは行きませんが…」
まだ若い…40前くらいか…
綺麗にアイロンのかかった白衣に計ったような7:3の髪型。カルテと彼を交互に睨みながら吐いた。
新宿区にある総合病院の診察室で彼は告知された。
「…ガーン」
医師も看護師も笑わなかったが、本人は満足げに笑みを浮かべている。
花沢五郎…30代前半に見えるが、実際は40代だろう。
人に『あんた死にかけてますよ』と吐いた医師が病状やら入院の手続きの仕方やらを始めている様だが、花沢五郎は上の空である。
スウェットの上下にサンダル。携帯、財布、煙草でポケットはもっこりしているという冴えない格好だ。
体調を崩し検査したのは一年ほど前なのだが、生まれつき面倒くさがりの彼は結果を聞きに行かなかった。
今回、騙し騙し働きながらの生活であったのだが、あまりのだるさと血尿の回数が増えたための検査にやってきた。
2ヶ月ほど前に入籍を済ませた妻の指示でもあったからだ。
なにやら案内書の様な書類を漫画本ほどの厚さで渡され、診察料を支払って外に出た。
季節は春だというのに気温は夏並みだ。
『…ガーン』
五郎はもう一度、心の中で言った。
新宿区では禁止されているタバコに火を付け、日本では禁止されている路上駐車の愛機に跨る。
古いスズキの350CCだ。
半キャップにサンダルにスウェット…普通に冴えない格好でエンジンを掛けた…途端に彼の目の色が変わる。
ズドドォ!ズドドォ!
一瞬の間に冴えない男は渋滞の靖国通りに消えて行った。
体調が悪いから病院に行く。
注射打って薬貰って帰る。
家で寝る。
朝から考えていた普通のプランが木っ端微塵にされた瞬間…彼は何を思ったのだろう…