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「いったー!!!!」
ゴチーンとものすごい音を出しフェリアは派手にすっ転んだ、思いっきり後頭部から地面に着地して星が回るような目眩に涙目になりながらフェリアは同してこんなことになったのかと状況を整理し始めた。
今日は王家主催のお茶会がありどうやら同い年の王家の王子であるドレイクの婚約者候補を選定すると言うので両親はすこぶる気合いを入れているようであったがフェリアはそんなどこの馬の骨かも分からん王子には微塵も興味もなくなんならどのドレスで行くかなど嫌々付き合わされて甚だ迷惑だと思っていた。なのでこっそりドレスの試着を抜け出し邸内を散歩していたのだ
ふと植木の奥で何かが光ったような気がしたフェリアはそれに興味を引かれ光った気がした方へ足を向けた、
が、それがまずかった。眼前の植木に中止するあまりフェリアは目の前のバナナの皮に気づかず踏んづけ、見事に半回転して後頭部から着地したのだ
「いてててて、な、なんなのよ!誰なのよ!こんなところにバナナの皮を捨てたのは!!」
ちなみに捨てたのはフェリア自身であるが、それはせんなきこと
「わたしバナナのこと嫌いになったわ!もう金輪際バナナは食べないし、食事でも出さないように料理人にもきつく…」
不条理な怒りの言葉をバナナの皮に向けて吐いていたフェリアの語気はなぜか唐突に弱まっていった
「あれ?わ…わたし…え?エリシア様?え?そんな…」
フェリアの脳内にこれまで頑張ってフェリアを死の運命から救おうと奮闘する親友エリシアの記憶が流れ込む、そう奇しくもフェリアは偶然踏み、滑りこけたバナナの皮のおかげで自身の人生が何度も繰り返され、何度も非業の死をとげ、それをどうにかして食い止めようとする生涯の親友エリシアの姿をはっきりと思い出したのだ。
その瞬間フェリアは雷に打たれたような感覚に襲われ前屈み俯くとプルプルと小さく震え始めた、次の瞬間
「んほぉぉぉぉぉおおぉぉ!!」
突然の規制が庭園内にこだました
「エリシアさまぁぁぁ!!ぬぅおおぉぉぉぉ!がわいぃぃぃいぃぃ!!!」
「なぜ!!なぜにわたしは今までこんな大切な事を忘れていられての!?」
「ばか!わたしのバカ!!尊い!!エリシア様尊い!!」
「ありがとうバナナの皮さん!嫌いなんて言ってごめんなさい!!すきすき大好き!これから毎日食べちゃう!!!」
このフェリアという娘、王国の高位貴族の中でも1、2を争う両家の令嬢であり天才的な頭脳を持つ才女であり、容姿も端麗という最高最強の完璧超人なのではあるがやはりというか神様はしっかりバランスを取っていた…少し変、というかかなり変。いやもはやその性格は変態の域であり、こと王国の貴族一歴史の長いフィール公爵家の令嬢エリシアのこととなると、もしフェリアが同性ではなくハゲ散らかしたおじさんだったら間違いなく憲兵に拘束され社会的抹殺をされてしまうこと間違いなしというほどの変態性を見せていた。
が、そこは腐っても天才。脳内がどんなに腐ろうと、その精神が目を背けたくなるほどただれようとも天才は天才なのである。ゆえにフェリアは自分の家族とその使用人以外にすの自分を見せず物心ついた時から外では猫を被ってきた、なぜか?それはフェリアの変態性が世間にはいけ入れられ難くまた、その変態性を隠して人間関係を構築した方が円滑に物事を進める事が可能である事を彼女は理解しているからである。
ひとしきりエリシアに対して悶え終わると、ついでフェリアは自分の置かれている状況の把握・推察・考察をするため思考の海へと沈んでいった。
まず、フェリア自身がなぜ毎回死亡してしまうのか、過去エリシアが直接忠告してきた際に得た情報だとエリシアの死因には自殺も含まれているようであったが、フェリアの死因はその全てが事故死と他殺であった、特に直近の死因は他殺でフェリアを死に追いやった相手は王国の宰相というゴシップ記者が知れば貴族の醜態を面白おかしく書かずにはいられなくなるようなドロドロの貴族間の争いが起因していそうな感じであった。
「エリシアさ…じゃなかった、ふうむ…過去の事故死も思い返すところだと結構おかしなところだらけで、割と事故死に見せかけて誰かがわたしを殺そうとしているようなのよねぇー…」
フェリアは変態ではあるが決して悪人ではない、本人も考えてみたがどうにも恨みを買っている自覚はさっぱりない
「エリシ、こうなるとわたしというよりルーン家に対してか、あるいは…」
そう言って考察をまとめに入ったフェリアはエリシアとは似ているような、それでいて全く違う合理的な回答を出した。
フェリアの結論はこうだ、まず自分の死が何に起因しているのか、それは『ドレイク王子の婚約者に内定ないしは決定する事』であると、それは直近の死に際、犯人である宰相がそれらしい事を口にしていたここと、どおやらエリシアは自分が悪女のように振る舞いフェリアに辛く当たればフェリアは死なずに済むと思っているようだが、エリシアがフェリアに辛く当たることで実は副次的にドレイク王子の婚約者はエリシアになりフェリアが婚約者候補から外れているのである。
「エリ…となると、やはり考えられるのはわたしがドレイク王子の婚約者、ひいては王族になる事で不利益を被る連中の仕業?」
フェリアの予想ではエリシアが婚約者候補ではなく婚約者となっても死んではいない事実から歴史は古いが財力にとぼしいフィール公爵家と歴史は浅いものの投資などで莫大な富を持つルーン侯爵家、つまり王家に財力を与えたく無い、これ以上王家に力をつけたせたく無い貴族がフェリアを事故に見せかける、もしくは人を雇うなどして殺しているというものだった。
そこに思い至ったのちフェリアはついでどうやって自身の求める最良の結末へと向かっていくかについて考え始めた、彼女の求める最良の結末とは①フェリアとエリシアが死なずおばあちゃんになるまで仲良く長生きする、②自身の死の根幹である王家の衰退を願う者たちの一掃(これは財を持つフェリアたちルーン家が枕を高くして寝たいため)③エリシアもっと一緒にいたい、めっちゃ近くで楽しく過ごしたい、であった。
大まかに道筋を立て、様々な可能性を考慮しフェリアは決断する
「今回もきっとエリシア様は悪女のように振る舞いわたしとの折衝を抑えようとするはず…とすれば今までと同じように何も気づいていないていで危険を回避させてもらってその裏で工作をしている者たちの尻尾を掴んでまとめて一掃する!ってのがいいかしら」
つまりフェリアは下手に動いていつ王家の力を削ぎたい者たちが仕掛けてくるか分からなくなってしまう状況に陥るよりも前回の流れを踏襲して仕掛けてくるタイミング、つまりエリシアの嫌がらせによって自身の行動がそれ以前の人生と変えられてしまったタイミングを把握している優位を生かして秘密裏に情報を収集、首謀者まで調べ上げて一網打尽にしようというのである。
「しかもそれだとエリシア様に罵られたり、叩かれたり、紅茶を浴びせかけられたり…ハァハァ、しょ、正直ご褒美以外の何物でもないんですけど!?最高なんですけど!?」
もう一度言うがフェリアは天才ではあるがその本質は変態である
しかしフェリアはエリシアに悲しい思いをしてもらいたいとは思っていない、叩いてほしい罵ってほしいとは思っていてもエリシアが辛い思いをするのはフェリはも望んでいないのである。
となれば秘密裏の証拠集めと並行して悪女ぶるエリシアのフォローも入れなければなるまい
「と、何はともあれそうなってくると先立つ物(お金)が必要になってくるはね…まぁむこう5年の未来を大まかに知っているチート状態でお金を稼ぐことなんて造作もないわ」
そう言うと大きなたんこぶができている後頭部をさすりながら立ち上がりフェリアは屋敷の方へと足を向けた
「まずは商会を作ってお金と人材を集めましょう、さぁて忙しくなるわ!そして面白くなってきたわよー」
「むふふふ、みてなさいわたしとエリシア様の蜜月ライフのために完膚なきまでに運命を変えてみせるわ!」
こうして変態であり天才の運命に対する反撃が始まったのである。