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新年1日 たったひとつの冴えたやり方

私はとんとんとジャンプして真新しい木靴の調子を確かめる。

うん、いい感じだ。

その様子を心配そうに見ている奥さん。

昨晩の脅しですっかり怖がらせてしまったようだ。

私は、ニッコリ微笑み、新しい靴のお礼と今後は二度と煩わせない事を約束した。

よっぽど嬉しかったようで奥さんはパンとチーズを少し分けてくれた。

ありがたく頂いておく。

新年の朝だ。

町全体が白い雪に覆われていた。

寒いが清々しくもあった。

私は大きく伸びをする。

何はともあれ、私は最大のピンチを生き延びる事に成功したのだ。だが、これで終わったわけではない。

元の世界に戻る方法が分からない以上、私はマッチ売りの少女としてこの世界で生きていかなくてはならないのだ。

大晦日が終われば戻れるのかとも思ったがどうも戻れないようだ。

なので当初の計画を進めていく事にする。

詰まるところマッチ売りの少女の悲劇は経済的貧困が根っ子にある。

だから、その部分を改善しなくてはマッチ売りの少女、すなわち私の運命はいつまでたっても安定しない。

故に当面の目標は経済的な自立だ。

そのために必要な情報は夜のうちにマッチを使って手に入れていた。

本当にこのマッチは便利だ。

私はパンをかじりながら目的地に向かって歩き出した。

1時間ほど歩いてようやく目的地に着いた。

町の外れに古ぼけた家がぽつねんと建っていた。

玄関のドアノブを回すとなんの抵抗もなく回った。鍵は掛かっていないようだ。

ドアを半分開けて声をかける。

「ごめんくださーい」

返事はなかったけど、私は構わず中に入る。

「誰か居ませんか?」

声をかけながら廊下を進む。突き当たりに半分開いたドアがあった。

そっと中に入る。

ガラスの器具やら分厚い本が所狭しと置かれていた。

窓際に机が置いてあり、そこに一人の男が突っ伏して居眠りをしていた。

「もし、もーし」

私はその男の人の肩を揺すって起こす。

男の人は目を覚ましたがまだ少し寝ぼけた感じだった。とろんとした目付きで私を見ている。

歳の頃は20代前半。癖っ毛らしく、金髪が寝癖でピンと跳ねていた。

「ハンスさんですよね」

私はマッチを擦って入手した情報でこの人の事を知っていた。

自称、町の発明家でお人好し。

それが彼。

マッチが選んでくれた私のパートナーだ。

「えっと、誰?」

ハンスは戸惑いながら言った。

「あなたのパートナーです」

「パートナー?!」

ハンスはすっとんきょうな声を上げ、まじまじと私の顔を見る。そして、少し顔を赤らめながら言った。

「いや、確かに君は可愛らしいからきっと美人になると思うけど、今、僕は結婚の事は考えていないと言うか、その……

君もまだそういう事を考えるのは10年位早いかな、つまり僕が言いたいのは、その……」

「何をいってるの」

私は呆れたように叫ぶ。

「パートナーと言ってもビジネスパートナーよ。

ビ、ジ、ネ、ス、パートナー!」

「ビジネスパートナー!」

ハンスは丸くした目を更に大きく開いて、叫んだ。

「……失礼だけど君はとてもお金を出せる余裕があるようには見えないけれども」

「違う。出すのはお金じゃない、アイディアよ。

今、あなたが抱えている問題を解決するアイディアを私は持っている。

そのアイディアを話す。

その代わり、そのアイディアで出た利益を折半するのが条件よ。どう?」

「どう?と言われても……」

ハンスはあからさまに困惑した表情になる。

ま、それはわかる。

自分のような子供(中身はあなたより歳上だけどね)にこんな提案をされても本気なのか冗談なのか判断に困るでしょう。

「今の内容を念書にしてサインをしてください。そしたら話します。話を聞いて、駄目なら無かったことにすれば良い。あなたの損失は何も無いわ」

少し悩んだがハンスは頷いた。

「分かった。約束しよう。

それで、なんについての話をしてくれるんだい?」

「これです」

私はマッチを一本取り出すとハンスに見せた。


- - - - - - - - - - - - -


「マッチ要りませんかぁ」

「マッチ要りませんかぁ」

街頭で少女達が大きな声でマッチを売っていました。

「ハンス・エーデンハイン考案の画期的なマッチです」

「ハンス式安全マッチは如何ですか~

ポケットに入れていても安全、安心。

ハンス式安全マッチは如何ですか~」

「ふ~ん、お嬢ちゃん。どの辺が安全マッチなのかな」

口髭の紳士が少女に質問しました。

「よくぞ聞いて下さいました。

良いですか、このマッチを、こう擦っても火はつきません」

少女はそう言いながらマッチの棒を手近の壁に擦り付けました。しかし、一向に火はつきません。

「ところが箱についているこの部分に擦り付けると、あら不思議!簡単に火がつきます」

少女はそう言いながらマッチを箱の茶色い部分に擦り付けるとマッチは鮮やかに燃え上がりました。

「ほほう。これは面白い!」

紳士は感嘆の声をあげました。

「でしょう!

このマッチならポケットの中でマッチが擦れて燃え上がって火傷するなんて事は絶対有りません」

「フムフム。良し、それでは2、3箱貰おうか」

「は~い、毎度有難うございます」

最近、発売されたハンス式安全マッチは大人気で飛ぶような勢いで売れていきました。


2018/01/15 初稿


マッチ売りの少女が売っていたマッチはマッチの頭のところ(頭 薬)に発火材(黄リン)と更に火が燃え続けるための材料(塩素酸カリウム等)が配合されていました。

だからマッチを壁に擦り付けただけで火が起きます。原作(*1)を読むとマッチ売りの少女も壁にマッチを擦り付けて火を起こしている記述があります。


*1 テキストは『完訳 アンデルセン童話集2』(岩波文庫 大畑末吉訳 第33刷)を参考にさせていただきました

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