表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

大晦日 真夜中 反攻

私は赤い屋根の屋敷の玄関の前に立っていた。

どんどんと扉を叩く。

暫くすると女の人が顔を覗かせた。

最初、私の顔を不思議そうな表情で見たが、直ぐに顔をしかめて言う。

「こんな時間に何の用かしら?

最初に言っておくけど、何も買うつもりは無いわよ」

オーケー、私も何かを買ってもらう気はない。

「いいえ、奥さま。

私はただ、私の物を返して頂きたいだけです」

女は片方の眉をつり上げる。器用だ。

「あなたの物ですって?

一体全体、何の話をしているの?」

「私の靴の話です」

私はスカートの裾を少し持って裸足の足を見せる。

「あなたの息子さんが私の靴を盗んだんです」

私の言葉に女の人のもう片方の眉もつり上がる。

「まあ、何て言いがかりをつけるのでしょう、この性悪な子供は!」

「言いがかりだなんてとんでもない!

嘘だと思うのなら暖炉で寝ている犬の目の前にある物を確認してみて下さいな。

そして、息子さんにそれをどうやって手に入れたか聞いてごらんなさいまし」

女の人は何か言おうと口を開けたが結局何も言わずに口を閉じた。

私の自信満々な態度に流石に心配になったようで奥に引っ込んだ。

暫くすると真っ青な顔で戻ってきた。

「まあ、なんということでしょう。あなたの言った通り、暖炉にこの靴が置いてありました。息子に聞くと道で拾ったと申しました。

これはあなたの靴なのでしょうか」

と言いながら古ぼけた靴をおずおずと差し出す。

それは間違いなく昼間私が無くして、ここの子供が持っていった靴だ。

ただし、片方だけ。もう片方は道端のどぶで雪に埋もれている。そして、それは今の私にとっては実に都合の良い状況だった。

私はこれらの事をマッチを使って知ったのだ。

マッチの火が消えても効力を失わないものは何かないかと考えて私が思い付いたもの。

それは『情報』だった。

マッチを擦る時、一晩の宿を確保できる場所と方法を願った。

そして、得られた『情報』が自分の靴を持っていった子供の家の場所だった。

さっきとはうって変わって恐縮した感じになった女の人を見て、この人は根は善良な人なんだと思う。だから、今から自分がやろうとしている事を思うと胸が痛んだ。

しかし、こちらも切羽詰まっている。やらないわけにはいかない。

私は意を決すると話し始めた。


- - - - - - - - - - - - -


「何で片方だけなのですか?」

マッチ売りの少女は、信じられない、といった風な表情を浮かべました。

「この靴は私のお母さんの形見なんです。

ちゃんと全部返して下さい!」

マッチ売りの少女は叫びました。

屋敷の奥さんは、困った顔で答えます。

「いえ、靴は片方しかなかったのです。む、息子も片方しか拾っていないと……」

「ああ、誰がそんな話を信じると言うのですか!

私を騙す気ならこちらにも考えがありますよ。

マッチを売りながら、あなた方の事を町中の人に言いふらしてやります。

『マッチ要りませんかぁ~。

はい、ありがとうございます。

ところで知ってますか?

ここの家の人は私の靴を盗んだ上に返してくれないのです。

マッチ要りませんかぁ~。

毎度、ありがとうございます。

ああ、聞いてください。ここの息子さんは、拾ったものをそのまま自分の物にしてしまうんですよ。この前、私の靴が脱げてしまったら、ここの子供が持っていってしまったのです。私の母の大切な靴なのに……

その上、無くしたとか言って返してくれないのです。酷いと思いませんか?

ですよねー、酷いですよね。また、宜しくお願いします。

マッチ要りません……』ってね」

身振り手振りを交え、黒い噂を流すところを熱演するマッチ売りの少女。

「いやー、止めてー!」

奥さまは耳をふさぎ、絶叫しました。

「なら、返して下さい」

「だから、持っていないと……」

「『マッチ要りませんかぁ~?

ここの息子さんは泥棒ですよ。

旦那さんは学校の先生らしいですが、こんな先生に教わった生徒はみんな泥棒になってしまいますよ~』」

「だから止めてー!

って言うかなんで、主人の仕事まで知ってるんですか!!」

「まあ、色々とね」

少女はドスの効いた声で答えました。

「あのね、奥さん。蛇の道は蛇って言ってね。私はこう見えても怒らせると怖い女だよ。

このままだとあんたの御主人、職を失って一家離散になるね」

「そ、そんな。私はどうしたら良いのですか?』

奥さんは可哀想に涙目になって少女に問いかけました。

少女はふんと鼻で息をつくと顎を指で掻きながら大儀そうに答えます。

そのやさぐれ感はとても、7、8歳の少女のものとは思えませんでした。

「そうだねぇ。無くしちまったって言うなら仕方ない。新しい靴を買って返すってのが道理でしょう』

「はい、それでは明日買ってお返ししますから、どうぞ今日はお引き取り下さい」

「あーー、なんだって?!

このまま帰れだぁ?私は裸足なんだよ。

このまま帰れとはどういう神経してんの」

「いえ、もうお店も閉まって居ますし……」

「だったら、私を泊めて早朝買ってこいや!

嫌だっーつぅなら……

『マッチ要りませんかぁ~……』」

「いや、だからそれは止めてー

分かりました、お泊めさせて頂きます!!」

と言う事でマッチ売りの少女は無事裕福なお屋敷で一晩泊めて貰える事になりました。






2018/01/14 初稿



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ