大晦日 昼 覚醒
「マッチ要りませんか」
一人の少女が大晦日の日、マッチを売っていました。
少女はマッチの束を片手に町行く人に一生懸命声をかけるのですが、家路を急ぐ人々は足早に少女の横を素通りするばかりでした。
朝からこの調子で一本も売れません。
少女はふと、目の前のガラスに自分の姿が映っているのに気がつきました。
ガラスに映る少女の頬は痩けて、顎が尖って見えます。
薄汚れて継ぎはぎだらけの服から伸びる手足は枯れ枝のようでした。
足には少女には似つかわしくない大きな靴を履いています。
と、その時です。
少女は見えない雷にでも撃たれたかのように体をビクリと震わせました。
そして、驚いたように周囲を見回した後、ガラスに映る自分の姿をまじまじと見詰め直しました。
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一体何がどうなった?
それが最初の思いだった。
気が付くと、私はここにいた。
どうやら目の前のガラスに映る少女が今の私のようだ。
どうみても7歳か8歳。
ああ、可愛いなこの子。お人形みたい……
じゃない!
おかしい。
さっき迄の私は26歳(公称、多少誤差あり)、女、日本人、大学講師、人生に破れ絶賛号泣中(詳細は後述予定)だったはずだ。
そして、今。
7歳か8歳(外観からの推定)、女、外人(ヨーロッパの人?)、職業……
私は自分が手に持つ物を見る。
マッチ棒の束……
前掛けのポケットも沢山のマッチで膨らんでいた。
うわ、売るほどあるわ、これ。
いや、待て。落ち着いて周囲の状況も確認せねば。
町の人の服装や行き交う馬車で大体の時代が推定できる筈。
う~ん、19世紀恐らく前半。
看板にはラテン文字。と言うことはロマン語圏かゲルマン語圏って事。
英語でないのは私にも分かる。多分、ドイツ語でもない。
ヨーロッパ、それも西欧か北欧?
そこから導き出されるのは……
参った。
「これってマッチ売りの少女、だよね」
私は手に持ったマッチの束を見詰め、唸る。
頬に冷たいものが触れた。
見上げると鉛のような色の空から白い雪が降ってきていた。
「私は死んじゃうのかな(恐らく凍死)」
呟くその声は少女のようにか弱かった。
2018/01/10 初稿