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第十九話 叫び

「……ッ!」

 音に反応し私は咄嗟に隠れなきゃと思い、ソファの後に飛び込みうずくまる。


 怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。


 今にも戸が開けられ妖が飛び込んでくるんじゃないかと、私の体がガタガタと震え出す。聞こえてくる廊下を歩く足音やちょっとした足音に悲鳴を上げそうになる口を抑え耐えていると、鼓膜を破りそうな程の絶叫があがった。


「があぁぁぁぁぁぁぁッ」


「……!」

 抑えた手をはねのけそうになる声を私は必死に抑え込む。

 今の声はなんだ。

 早打ちする鼓動を感じながら息を殺していると、戸が砕ける音が私の耳も心も震わせる。


「……ッ!」

 ガラスの割れる音と共に室内にゴンと何か大きなものを落とした音がし、続けて絶叫が上がる。

「あぁぁぁぁぁあぁぁ」


 これは……妖の声だ。

 状況がわからず私はその声に、ただただ恐怖を感じていると、絶対に掻き消されそうな小さな声をとらえた。


「縛」


「……!」

 今の声は……と、震える体に鞭を打ち、私はソファから顔を出す。するとそこには左手に三枚の札を持ち、右手の人差し指と中指を立てて念じる玄君の姿があった。

 服装は学校でと同じ黒のスラックスに前を開けた黒のベスト。足元は黒の革靴をはいている。

 土足のままではあるが、私はそんなこと気にもしなかった。


 助かった。その思いが脳にふわっと湧くと、春の日差しのように、恐怖を少しずつ溶かしていった。


 玄君と私が呼ぼうとした瞬間、室内に朱音さんが駆け込んできた。

「青歌ちゃん無事?」


 少し焦ったような、早口の言葉。綺麗な顔にも、どこか焦りのようなものが現れていた。朱音さんは臨戦態勢と言った感じで、左手にボロボロになったバック、右手には抜き身の刀を携えていた。刀身はぼんやりとだが青く輝いている。


 二人の姿を見て私の中の恐怖は全て消え去り、心に春がやって来た。

「無事です!」

 返事をすると朱音さんがソファまでやって来た。鞄をソファの上に投げ、私に空いた手を伸ばした。


「良かった。玄が嫌な予感がするって言ったから慌ててきたのよ」

 私が起き上がると、頭の上にポンと手を置く。撫でられながら、どうして私の家が分かったんだろうかと思い聞く。


「それはあれのお陰よ」

 スッと指先を玄君の先に向ける。ソファから顔を出しただけじゃ見えなかったが、立ち上がった私の視界には玄君の先で寝転がる、妖の姿があった。

 肩と額に二枚の札を貼られ、妖は身動きが取れないのか、射殺しそうな程の強い殺意を抱いた赤い瞳を玄君に送っている。


 その口の端には白い紙が引っ掛かっていた。

「あの紙は……ヒトガタ?」

 朱音さんに事務所でヒトガタを貰ったことを思いだし、しまったポケットを漁るが、中にはなにも入ってなかった。


「ヒトガタは主の身に起こる災難を肩代わりしてくれるものなの。念のため持たせておいて良かったわ」


 廊下で私にしか見えない何かが喰われていたのはその為だったのか。

 そこで私は背筋にぞわぞわと寒くを感じた。朱音さんがヒトガタを渡してくれていなければ……私はあのヒトガタのように腕も心臓も頭も脳も喰われていたんだと思い知らされた。


「ありがとうございますっ」

 心の底から礼を言う。


「お礼は良いわよ。ヒトガタの場所を探ってここまで案内してくれたのは玄なんだから。それに……御礼するのは……この鬼を退治してからよ」


 鬼と呼ばれた妖を見ると、震わせながらも札を剥がそうと額に手を伸ばしていた。


「縛」

 呟くように玄君が唱えると、腕がピタリと止まった。

「浄」

 続けて唱えると青白い火花が上がり鬼の体から煙があがった。


「ぐぅぅ……忌々しき陰陽師があぁぁ」

 仰向けに倒れながらも、鬼は玄君を睨み付ける。化け狐をたった一枚で封じた札は鬼に効いているようだが、ダメージまでは与えていないようで、鬼の声には力があった。


「私の札ならともかく、玄の札二枚でも抑えきれないなんて……厄介な相手ね」

 鬼と聞いても私の頭の中には、桃太郎や節分の鬼のイメージしかなく、何処か危機感のようなものが抜けてしまっていたが、朱音さんの厄介と言う言葉を聞き、気持ちが引き締められた。


「追い出せそう?」

 朱音さんが聞くと玄君はこくんと頷いた。


 すると玄君はスーっと意識を落ち着けるように息を吸いだした。指先を鬼に向けると、歌うように唱え出した。

「祓いたまえ、清めたまえ、浄」

 唱えに合わせて指を動かす。その動きは五芒星を描いており、言い終わると同時に鬼の体から青白い五芒星が浮かび上がった。


「うっ……ぐっ…… 」

 口を固く結びながらも、目を見開き鬼は苦しみ出す。固く結んでいた口が何かにこじ開けられたかのように開くと、思わず耳を塞ぎたくなる叫び声と共に黒い煙が吐き出された。

「ごあぁぁぁあぁぁ」


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