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第九話 導き

「なんで……ひっ」

 理解できない事態に私が混乱していると、ヴーっと手に持った革のバックが震えだした。


 心臓が止まるんじゃないかと言うほど驚き、思わずバックを落としそうになるが、私は慌てて握り直すと、またヴーっと震えた。

 この震えは……携帯?

 震動音に気づいたのか、朱音さんが取ってと言ってくる。


 視線はもうあげておらず、教室の中を見つめていた。バックを開けると点滅する携帯が目に留まった。


「ありがとう」

 受けとると、画面を一度タッチし耳に当てる。

「何か分かった?」


 電話が掛かってきていたようだ。相手の声は聞こえないが、このタイミングで出ることから玄君だろう。


「宝林寺ね…………うん」

 返事をする朱音さんの言葉から、玄君が調べ終えたことが分かった。

「……うん…………やっぱり狐か…………化け狐ね…………結界を張る準備は出来た? まだか…………いいえまだ張らないで……準備が出来次第急いで来てちょうだい…………入り口は閉じないように破壊して構わないわ…………待てるか?」

 険しい顔で話し続けていたが、朱音さんはフッと笑った。

「玄が来るまでは待てないわ。だって今見つめあっている最中だもん」


 玄君の状況は今一把握できなかったが、はっきりと把握できたことがあった。朱音さんは視線を教室の一点から外すことなく電話を切ると、携帯を私に渡す。


「閉まったら、札を四、五枚取ってくれる?」

 言われた通り私は携帯をしまい、札を取りだす。


 鞄の中は整理されておらずごちゃごちゃしていたが、札だけは側面のポケットに入れられており、簡単に見つかった。


 四、五枚と言われたので数を数えながら取り出そうとしたが、手が震え何度やっても枚数を数えられなかった。私の位置からは朱音さんで死角になり教室内の様子は見ることは出来なかったが、朱音さんの発言と、肌に突き刺さるような冷気で、中に悪霊……化け狐がいることが分かった。


 この寒さを私は知っていた。指先に触れた十円玉と同じ、氷に触れたような、冷たさと同時に痛みを覚えるような寒さを。


 怖い。指先だけじゃなく、バックを持つ手まで震え出す。

 雑多に詰められた手鏡や、小さな木箱や青い瓶等の小物がぶつかり合いガチャガチャと音を立てる。


 落ち着け、落ち着けと私は何度も自分に言い聞かせ、札を取り出す。


 数はちゃんと数えられなかったが、たぶん五枚のはずだ。


「ありがとうね」

 震える手から札を受けとると礼を言う。

「一人で怖いかもしれないけど、玄のところまで戻れるかな?」


「ひっ、一人でですか」


「うん。危険じゃないとは言えないけれど……ここにいるよりは遥かにましよ」

 受け取った札を一枚だけ残しポケットにしまうと、残した札を指先に挟む。


「……分かりました」

 一人で戻るのは怖かった。悪霊ではないとは言え、千代ちゃんに会い校内に霊がいることが分かった今、一人で移動しようと思うと、足がすくんでしまう。

 けれど、ここにいたら危険だと言うこと以上に朱音さんの邪魔になるだろうと私は思い、足に力を入れ前に一歩前に進む。


 朱音さんの邪魔にならないために私は懸命に歩を進めた。歩を止めることなく前を塞ぐ扉を開ける。

 早く。階段をかけおり、早く外に出るんだ。頭ではそう考えていた。


「青歌ちゃん!」

 朱音さんの叫び声がする。

 あまりの大きさに私は体をビクッと震わせる。そして自分が何をしたのか……何をしでかしたのか気付かされた。外に出ようと考え、手足を動かしていた事に間違いはないんだ。


 なのに私は、教室の扉を開けて中に入り込んでいた。


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