第一話
「きゅ……救済部?」
あれっ? 家庭科部じゃないの?
私が探していた部活と全く違う名前が聞こえて、一瞬、訳が分からなくなる。
(やっぱり、部室を間違えてたの!?)
慌てて部室を見渡すと……携帯ゲームをしている男の人と、目付きが悪く私を睨んでいる男の人と、目が合うとゆっくりと手を降ってくれた優しそうな女の人がいた。
そして、部屋には、冷蔵庫やら、ソファーやら、テレビやら色々と物があるのだけど……とても、家庭科部と言う雰囲気ではない。
つまり……。
(ど、どうしよう! やっぱり部室を間違ってたみたい!!)
「瑠花ちゃん……そんなに心配しなくても、今のナイスな自己紹介だったッス!」
気遣ってくれるのは、とてもありがたいのですが、そうじゃないんですよ!
むしろ、ナイスな自己紹介しちゃった後だから、「すみません、間違えてました」なんて言えなくて焦ってるんです!
(と、言うか……さっきから男の人が睨んでくるんですけど……!)
私が何か悪いことでもしたのだろうか、ソファーに座っている目付きの悪い男の人の視線が怖い。
何? 怖い人とか居ないとか思って安心してた私はやっぱり甘かったの?
もしかして、怖い人に目をつけられちゃった?
「ジンさん、笑顔、笑顔ッスよ! 瑠花ちゃんがすっかり怯えてるじゃないッスか!」
「いえっ……別に怖がってるわけじゃないですよ!」
多分、先輩は気を使ってくれてんでしょうけど……明らかに火に油を注いでる様にしか見えないです!
校舎裏に呼ばれるのは嫌ですよ!?
「明らかに怯えてるじゃねぇか」
上から声がして、前を向き直してみると、私たちの目の前には目付きの悪い男の先輩が、不機嫌そうな顔をして……いつの間にか私の前に立っていた。
「うぁ! ご、ごめんなさい!」
「チッ、ウゼェから謝るな」
吐き捨てるようにいって、男の人は自分が座ってたソファーに戻り、机に置いてあるマグカップを手に取った。
そして、中身を一気に飲み干してを机に置いた。
「彩乃、新しいのを淹れてくれ。 ……ついでに、そこにいる見学者の分も用意してやれ」
「はいはい~」
目付きの悪い先輩の呼び掛けに、窓際でのんびりしてた女性は、ゆっくり立ち上がり、机の上の目付きの悪い先輩のマグカップを手に取った。
「月見瑠花ちゃん……だっけ?」
「あっ、は、はい!」
「コーヒーと、紅茶と、麦茶と、三日前に美歌ちゃんが作ったオリジナルブレンドジュースがあるけど……どれがいい?」
「ちなみに、オススメは私が作った美歌オリジナルジュース! 舌とか三半規管が痺れるような味が特長ッス!」
「えっと、普通に麦茶で……」
「あっ! 彩乃先輩! 私は紅茶お願いするッス!」
自分のブレンドジュースを、飲まないんですか?
私が心の中でツッコミを入れていれていると、
彩乃と呼ばれていた女の人は、ニコニコとしながら「はいはい~」と嬉しそうに麦茶と紅茶を冷蔵庫から取り出していた。
「で、お前らはいつまで入り口の前で突っ立ってるんだ? 邪魔だから早く座れ」
「は、はい!」
「あっ、私、瑠花ちゃんの隣に座るッス!」
そう言って、美歌先輩は私の手を引っ張って、目付きの悪い先輩が座ってる向かい側のソファーに座った。
「お待たせしました~。 はい、いつものコーヒーですよ~」
「……あぁ」
そして、ソファーの間にある長机に温かいコーヒーがおかれる。
ミルクも砂糖も入れないようで、そのままのコーヒーに口を付けて、飲んでいた。
「はい、麦茶と紅茶ね~」
「彩乃先輩、ありがとうございますッス!」
「はい、頂きます」
私の目の前には、麦茶が入った湯飲みが置かれ。
美歌先輩の前には、紅茶の入ったティーカップが置かれた。
「よいしょっと……」
そして、彩乃と呼ばれていた先輩は、自分のティーカップを机に置いて、目付きの悪い先輩の隣に座る。
……ちなみに、そのティーカップの中身が紫色だった。
あのラインラップに、紫色の飲み物あったっけ?
「それじゃ、瑠花ちゃん。 そろそろ、この優しくてめんこい美歌先輩が救済部の仲間たちを、愉快に素敵に紹介しちゃうッス!」
そう私に宣言をして、美歌先輩はソファから立ち上がり「あーあー、マイクテス……本日は~」
とエアマイクを使ってエアマイクテスとをしていた。
私のために、紹介してくれるのは嬉しいんですけど……反面、逃げ道が無くなって複雑な心境です。
「それじゃ、先ずは部長の紹介からッスね!」
エアマイクなのにテストを念入りに済ませた美歌先輩は、目付きの悪い先輩の背後に移動した。
「学校救済部の頼れる部長! 腕っぷしとテンプレツンデレが特長の……3年! 平鹿 仁先輩!! ジンさん、何か一言?」
「うるせぇから……叫ぶな」
「では、お次ッス!」
ハイテンションを維持したまま、無駄に一回転を交えつつ、隣に座っている彩乃先輩の後ろに移動した。
「プロポーション&性格最高の救済部の副部長! そして皆、大好きお母さん……花園 彩乃先輩!
先輩、そのプロポーションの秘訣は?」
「あら、私は美歌ちゃんのスレンダーな体型の方が好きよ~」
「ありがとうございます! でも、体重が増えてもいい、私は胸が欲しいッス! ただし、W、テメーはダメだ!」
美歌先輩は、私より全然ある自分の胸を触りながら、叫んでいた。
……確かに、彩乃先輩の大きいなぁ。
美歌先輩が叫ぶ気持ちも、かなり分かるかも……。
「瑠花ちゃん、女の価値は胸じゃない……心ッスよ。 ……とっ、素晴らしい名言が出たところで、お次に行くッスよ!」
さっきまでの悲しそうな表情から一変して、満面の笑顔を振り撒きながら、椅子に座って携帯ゲームを熱心にしている男の人の元に走り出した。
そのテンションの高さ、アグレッシブさに、若干呆れるながら感心してしていると……
「貰ったーー!!」
美歌先輩は携帯ゲームをしていた先輩からゲームを奪い取っていた。
……なんで奪い取ったんですか?
当然の如く、ゲームをしてた先輩が顔を上げた、初めてゲームしてた先輩の顔が見えた。
でも、前髪が長く、片目は髪の毛で隠れてて見えないが……顔にはハッキリと怒りの表情を浮かべていた。
「美歌! 何すんのよ!?」
「……えっ?」
私の口から疑問の声が零れてしまった。
だって……私が想像してたのは、もっと低い声だったのに……。
ゲームをしてた先輩から出てきた声は、とても高くて……。
「返しなさい! アタシのアイドル達がオーディションに落ちたらどう責任とるのよ!!」
女の人のような口調でした。
ゲームをしてた先輩は、かなり強引に美歌先輩からゲームを奪いとっていた。
……あんまりのギャップに、開いた口が塞がらない。
見た目は確かに細くて女の人のようだが……ズボンを着ているし、顔付きからしても男の人なのに……。
口調と声の高さは、女の人でした。
「あぁ~!! やっぱり、オーディション失敗してるじゃない! ロードしてやり直ししなきゃ……!」
「ナオちゃ~ん、お客さんが居るのにゲームばっかりしてちゃ、ダメッスよ~」
「えっ? ……お客さん?」
「ほらほら、そこの後輩ちゃんッスよ!」
美歌先輩が、私を指差してゲームをしてたオネェ口調の先輩に、私が居ることに気づかせた。
ゲームをしてた先輩は、顔が青ざめていたが……「ごほん!」と一つ咳払いをして、無表情を装っていた。
「……さっき、聞いたのは幻聴だ。 俺が女言葉を喋るわけがないだろう?」
さっきまで、オネェ口調で女の人のような声で喋ってた人とは、思えないような低音と口調だった。
……オネェからの凄いギャップで、私は、また唖然としていた。
「瑠花ちゃん! いつまでも呆けてないで、最後のメンバーを紹介するッスからしっかり聞くッスよ!」
「……フォロー位しろ、バカ女」
オネェ口調だった先輩は、諦めるようにため息をついていた。
なんとなく、あの先輩は、美歌先輩の被害を一番受けてそうな気がする。
「クール&オネェな二面性を持つゲーマー! 実はかなり有能な二年生……風切 直人! 気軽にナオちゃんって呼んであげて欲しいッス!」
「……バカ美歌、その呼び名は止めろと言わなかったか?」
「テヘッ☆」
おね……風切先輩が、本気でキレかかっているにも関わらずに、美歌先輩は何知らぬ顔で風切先輩の座っている椅子から離れた。
「そして、最後のオオトリを勤めるは……救済部一の美少女! 特技はギターと声マネのミュージシャン……鳥居 美歌ッス! ギター取り出すの面倒なんで、エアギターを披露するッス!」
美歌先輩は、エアギターのパフォーマンスをし始めた。
「センキューッス!」
エアギターのパフォーマンスを終えた美歌先生は、片手を上げてキメポーズを決め、満足そうに笑っている。
「うふふっ……美歌ちゃん、とっても素敵よ~」
パチパチと彩花先輩の拍手を聞きながら、パフォーマンスを終えた美歌先輩は、満足げに私の隣に戻ってくるなり、腰に手を当て、紅茶を一気飲みした。
「ふぅ、仕事の後の一杯は最高ッスね! この一杯のために働いてる……」
「でっ……このバカが満足したようだから、一つ聞きたい事があるんだが」
「せっかくのキメ台詞がっ……!! 最後まで、言わせて欲しいッス! ジンさんのイケズ!」
美歌先輩は、余程その台詞を言いたかったのか、特に意味が無いのかわからないけど、ハンカチを口に加えて引っ張るほど悔しがっていた。
平鹿先輩は、ため息をついて……何故か、私の事を睨んできた。
「まあ、なんだ……。 お前は、自分の意思で見学をしに来たのか?」
「……えっ?」
「何言ってるんッスか、ジンさん? 瑠花ちゃんは……」
平鹿先輩の言葉に、私はドキッとした。
そして、私がどう答えればいいのか考える前に、美歌先輩が喋ってしまったが……。
「テメーは黙ってろ」
平鹿先輩の厳しい声に、美歌先輩は、かなり不満そうな表情をして、口チャックの仕草をして喋るのをやめた。
美歌先輩の様子を見て、ため息をついた後に、私の方に向き直し、「話を続けるぞ」と言った。
「何が言いたいかと言うとだ……お前、そこにいるバカに無理矢理連れてこられただろ?」
平鹿先輩は、美歌先輩を指差して私にそう聞いてきた。
確かに無理矢理と言えば……無理矢理なような気がするけど……。
「意義ありッスよ! ジンさん!」
私はどう答えればいいか迷っていると……もう口チャックを外してしまった美歌先輩が、平鹿先輩に反論してきた。
「あぁ? 仕方ねぇから……聞いてやる。 お前もそれでいいか?」
「は、はい! 大丈夫です!」
私がそう言うと、平鹿先輩は心底めんどくさそうな顔をし、頭を軽く掻いた。
「んじゃ、言ってみろ」
「はいッス! 瑠花ちゃんは、救済部の部室の前に居たッス!」
確かに居ましたね、家庭科部の部室だと思ってましたが。
「そして、瑠花ちゃん本人も見学者って言っていたッス!」
確かに言いました、救済部の見学する事になるなんて予想もしてませんでしたが……。
「その他モロモロ含め……瑠花ちゃんが救済部に見学をしに来たのは間違いが……」
「話しにならねぇよ」
美歌先輩の反論を遮ったのは、平鹿先輩の呆れた声だった。
「ど、どーいう事なんッスか!? ジンさん、教えてジンさん!」
「……自分で言ってて気づかないのか?」
「えっとね、美歌ちゃん。 ジンちゃんが聞きたい事はね……」
額を押さえて黙ってしまった平鹿先輩の代わりに、彩乃先輩が、頭に?マークが浮かんでいる美歌先輩に、こう言った。
「瑠花ちゃんの口から、ちゃんと「救済部を見学しにきた」って聞いたの?」
「聞いてないッスよ? 私が部室の前に居る、瑠花ちゃんを……ハッ!?」
彩乃先輩の一言に、美歌先輩の表情が固まった。
しばらく、時が止まったように動かなくなった美歌先輩は、「あ、あははー」と苦笑いを溢した後……。
「み、見方によっては、私が無理矢理連れてきてた……ように思えるッスね」
「思えるッスじゃねぇだろ! やっぱり、無理矢理連れてきやがったな!」
アハハーと笑って誤魔化す美歌先輩に、平鹿先輩が怒鳴り付ける。
「か、雷落ちたー! ジンさんの雷、マジ、ジ◯スパーク!」
そう叫んだ後に、「すんませんでしたー!ッス!」とソファーから立ち上がり頭を下げる美歌先輩。
「バカ野郎……俺に謝るより、そこの一年に謝れ。 お前の勘違いで迷惑かけたんだからよ」
「うぅ……瑠花ちゃん、申し訳ないッス! 私、てっきり入部希望の後輩属性の美少女だとばかり……」
「そ、そんな謝らなくても……大丈夫ですから!」
こちらに体を向き直して、同じく頭を下げる美歌先輩をなだめて、頭を上げて貰いソファーに座らせる。
「……まあ、そう言う訳だ。 ウチのバカが迷惑かけたな。 すまない」
「瑠花ちゃん、美歌ちゃんに悪気はなかったの許してあげて?」
彩乃先輩と、平鹿先輩はそう言っていたが……私は、別に怒ってない。
それに、美歌先輩が悪気がない事だってわかるし。
私のために、頑張ってくれたのもわかる。
……だから、私は……。
「あ、あの、確かに私は、家庭科部と間違えてここに来ました」
興味が沸いてしまったのだ。
「でも、私、したいです! その、色々と興味がわきました! 学校救済部に!」
だから、私はこう言った。
「私を、学校救済部に体験入部させてください!」
感想よろしくお願いします。