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第5話

 今日も朝からハウエルと擦れ違いざまに火花を散らし、バンビちゃんの部屋へとやってきた。

 最初の頃に比べたら恐怖に慄く態度は取らなくなったが、朝会って暫らくは私に慣れるまでに時間がかかる。それから少しずつ態度も軟化していくのだ。

 恐れ慄く姿に快感を感じる私にとってそれは、格好の餌場と言えた。

「バンビちゃん、おはよう。今日からは少しずつバンビちゃんが魔王としての威厳を保つためのお勉強をしようと思う。覚悟はおあり?」

 薄く笑ってみれば、ひっとバンビちゃんの喉から小さな悲鳴が聞こえた。

 あら、怖がらせてしまったかしら? 勿論、わざとだけどぉ。だって、見たいんだもん。バンビちゃんのあの顔。仕方ないじゃないの。

「勉強?」

「そんなに怖がらなくてもいいのよ、いい子ね。勉強って言っても私が教えるのは凄く簡単なものだから安心して良いのよ」

 ついつい我慢できずに両頬を包んで撫で回してしまった。たっぷりと堪能してしまったのは、バンビちゃんがあんまり嬉しそうな顔をするものだからであって、決して私が変態なわけではない。と、公言しておこう。でもね、バンビちゃんの頬って本当に柔らかいんだよ。赤ちゃんのほっぺって触ったことある? ほっぺじゃなくても赤ちゃんの手首でもいいや。もっちもっちだよ。ぷにぷにだよ。うにうにだよ。バンビちゃんの頬って赤ちゃんのほっぺそのままの状態を今に残している言うなれば天然記念物なんだよ。そこにあったら触りたいってそりゃ誰でも思うじゃないか。

「よろしく……お願いします」

「あん、もう。おねぇさん、バンビちゃんのために頑張っちゃうっ」

 上目遣いは反則でしょ。バンビちゃんってまだ成長過程の真っ只中で、僅かに私の方が背が大きいのだ。自然と向かい合えば上目遣いになるってすんぽうよ。この時ばかりは自分の長身を褒め称えたくなったことはない。モデル並みの身長は、モデルになれば大いに生かせるのかもしれないが、一般人の私が持っていたところで宝の持ち腐れってやつ。この長身のせいで、何度男にフラれてきたことか。涙涙の涙祭りじゃい、ボケぇ。

「あの、あの、結月さん。キツいので、放してもらえませんか」

 可笑しいなぁ。いつのまにバンビちゃんに抱き付いていたんだろう、私。え、これって乙女の暴走? おい、ちょっと今変態の暴走とかいったやついるだろう? 怒らないから出ておいで。鞭が良い? それともロウがいい? 選ばせてあげる。

「あの、結月さん。本当にもうっ。苦しっ」

 いかん。バンビちゃんがおちてしもうたぁ。私のひ弱な腕になんでこんな馬鹿力があったのかしら。これはきっと恋の力……。

「って、バンビちゃん。お気を確かにぃ」

「陛下っ」

 扉がドォーンと開いて(イヤ、開いたんじゃなくて飛んでいきましたけど)、変態ハウエルが飛び込んで来ると、私の腕の中からバンビちゃんを奪い取った。

 幸いバンビちゃんはすぐに意識を取り戻したんだけど、いかんせん変態ハウエルの腕の中にいる彼の姿は悔しいけれどなんか美しい。敵ながらあっぱれ。元々外見だけは美しいハウエルと美少年のバンビちゃん――しかも意識が戻りたてのためぼんやりとしている――。

 これって白雪姫? それとも眠れる森の美女?

 いけないわ、私。イケない妄想が私の脳裏を駆け巡り、踊り狂っている。

「ハウエル。あんたって変態の中でもトップレベルの変態よ。あんたをキングオブ変態に担ぎ上げるわ。ああ、なんて美しい光景なのかしら。この世界にカメラがあれば写真に収めて毎日それをおかずに妄想を広げるのに。そうだっ。おっ、お客様の中に絵描きはいらっしゃいませんかっ?」

「落ち着いて頂けませんか、結月様。変態すぎて陛下が気絶しそうです」

 再び気を失ったバンビちゃんは白雪姫に戻ってしまった。

「ねぇ、ハウエル。私ね、イタズラしたい気持ちがどうしても止められないの」

「念のため窺いますが、どういった類のイタズラでしょうか? 時と場合によってはあなたをこの城から放り出すことも考えなければなりません」

 私がハウエルの耳元に顔を近づけ、こっそりと耳打ちすると、その表情は徐々に赤みを帯びていく。

 完璧無表情を貫いているつもりのハウエルであるが、とっくに表情崩れちゃってるから。

 顔を放し、ハウエルと目が合うと微笑みあった。商談成立といったところでしょうか。

「私さ、思うわけ。私がバンビちゃんにイタズラしたいとか苛めたいなんて思うのは、バンビちゃんが可愛すぎるのがいけないと思うのよ」

「その点につきましてはあなたと同意見ですよ、残念ながらね」

「私、あんたは嫌いだけど、気だけは合うと思うのよね。同志みたいな?」

 にやりと笑めば、同じ不適の笑みを返される。打てば返ってくるハウエルが私は案外好きだ。

「全く同意見ですよ。あなたのような下品な女性、黙っていれば絶世の美女と言われるのでしょうけど、初めて見ましたよ。それに、私の性癖を知っても見下すこともない。これでも私はあなたを認めているんですよ。こんなに早く陛下の笑顔が見られるとは思いませんでした。感謝しています」

「ねぇ、なんかあんたにそんな改まってそんなこと言われるとその裏を考えちゃうんだけど……。でも、その言葉受け取っとく。ありがとう」

 取って置きの友人を得た気分だ。ハウエルが私がそう思ったことをどう感じるか解らないけど、私は彼を親友と思ってもいいだろうか。親友で同志でライバル。そんな存在を得たのは生まれて初めてだ。

 黙々と手を動かす私を見ているハウエルの瞳が優しかったのは気のせいだろうか。ああ、ハウエルはバンビちゃんを見て微笑んでいるんだ。鏡の中に映るバンビちゃんを眺めて私も笑みを零した。

 目が覚めたらバンビちゃんは、驚愕してまた気を失うかもしれない。だけどね、バンビちゃん。その姿で私と王城内を練り歩きましょう。誰もバンビちゃんだって気付いたりしないよ。だってこんなに可愛いんだもん。でもね、ちょっとだけ独り占め、イヤ二人占めしたい気もする。

 女装姿のバンビちゃんを。

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