第1話
第1話は、短編の最後を取り除いたそのままをごっそりを載せております。
わなわなと肩を震わせて、上目づかいに私を縋るように見つめている男に威厳のイの字もなかった。
わざとらしく大きく息を吐いてみせると、それにさえビクついたように肩を強張らせる。
私の背後に控えていた男に視線を向ける。苦笑を浮かべていながらも、提案を退ける気はないようだった。
「言っておくけど、私は元々この世界の人間じゃないから、誰かを敬ったりしないから」
それでも良いのか、と言外に含めた。
ここで誰か、それは困る、とでも言ってくれればこの提案も白紙に戻るかもしれなかったのに。誰もそれに意義を唱えるものなどいなかった。
肩を震わせていた男は、とうとう部屋の四隅に身を寄せ、怖ろしいものでも見るかのように私を見る。
私は新種の化け物か?
そう罵りたくなるほどに居た堪れない姿だった。
「それでは、何卒宜しくお願いいたします。私は他の仕事がございますので……」
そう言って、控えていた男が席を外す。怯えた男は、その男に助けを求めて手を差し出すが、望みは呆気なく絶たれた。
「そんな端っこにいて何が楽しいのよ。別にあなたを取って喰おうなんて思わないから、こっちに来なさいよ」
私の真意を窺うように、瞳の中を覗き込んでくる。距離は大分あるのに、その目力は強く何もかもを見透かされそうだ。
きっと、力自体には問題はないのだ。問題は、この性格なのだろう。
「あなたが来ないなら、こっちから行くわよぉ」
じわりとまず一歩、男の様子を窺いながらまた一歩、さらに一歩。警戒しながらも、既に背後は壁のみの男には逃げる場所もなく、怯えながら目だけは私を捉えている。
「いい子ねぇ。私は怖くないわよぉ」
余裕があるふりをしているが、私自身緊張していた。この男の力が計り知れないことは知っていたし、あまりの恐怖で力が暴走すれば、私などひとたまりもないのだ。
男の前にすとんと座るだけで、こちらが驚くほどに身を縮めた。
「私が怖い?」
男は震えながらも頭を縦に振った。内心、うら若き女性に怖いとは何たる無礼だと憤りを感じないわけではなかった。
「何が怖いの? 私があなたに何かをしたかなぁ」
今度は頭をふるふると横に振る。全力で頭を振る姿に、いささか心配になる。頭は吹き飛びはしないかと、頭を揺らしすぎて頭痛を感じやしないかと。
「私は無力なのよ。あなたになら解るでしょぉ? 私があなたに危害を加えることなんて出来ないの」
力の差は歴然で、私ごときに怯えていること自体不自然なのだ。それでも子猫のように警戒し、怯える姿にむくむくと感じるものがあった。
私は、ゆっくりと手を伸ばし男の頭に手を乗せ、ぐしゃりと掻き混ぜた。噛みつかれるか、ひっかかれることを覚悟したが、怯えながらも私のなされるがままになっていた。
「ほら、見て。私にはあなたを引っ掻く長い爪もないし、鋭い牙もない。どうして私があなたを傷つけられる?」
自らの爪を指し示し、口を開いて歯を見せる。
「僕を苛めたりしない?」
「私があなたを苛めて何になるの? 私はさっきここにいた男に頼まれてきただけよ、あなたに教えてほしいって」
「教える?」
「そう、あなたを立派な魔王様にするために私が力を貸すことになったの。よろしくね、魔王様」
妖艶に微笑むと、魔王はぶるりと震えた。
魔王としての威厳など持ち合わせていないこの弱そうな男、だが、彼は間違いなく魔王であり、その力はもちろん魔界一。しかしながら、その性格はあまりに引っ込み思案でナヨナヨ。城内では、ヘタレ魔王と陰で指を差されることも日常茶飯事だった。
そんな魔王を更生するべく、駆り出されたのは私なのである。何年か前にこの世界に迷い込んできた私であれば、何の思いいれもなく、びしばしこのヘタレ魔王を指導できると各所関係者は踏んだのだ。
そして、この私、このヘタレ魔王を甘やかす気は微塵もないのだ。先ほどからうずうずしている。罵りたくて罵りたくて仕方がないのだ。
だってこの私、日本では『女王様』なんて呼ばれていたのだから。
短編を書いていて楽しかったので連載版にしてみました。自分の娯楽だけの為に書いているような作品です。