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年明けは甘い勇気の味

掲載日:2026/03/15

今日は現代もの!

中々異世界恋愛に戻れなくて申し訳ないです……。

何とか生活リズム戻せるよう頑張るので、暫しお待ちを!

 新しい年が来る。そう感じる時期は、それと同時に、自分がまた一つ歳を重ねることになると実感する。

 私は今年二十九になった。そして、あと一日でやって来る来年には三十――三十路になる。

 三十路という節目を何となく、若さと大人の境界のように思っている自分がいる。独り身で遊び惚けていた周りの友人たちも次々と結婚し、身を固め出す年齢だ。

 その中で私だけがずっと、置いていかれているような心地がしていた。

 私だけが大人になり切れず、子供の頃に見た夢をまだ手放せないでいる。




 小さなワンルーム。布団の上に折り畳み式のローテーブルを広げ、その上に乗せたノートパソコンと私は睨み合う。

 時刻は二十二時過ぎ。私は文書作成ソフトにひたすら文字を打ち込んでいた。

 食事をとることも忘れ、水を飲むことも忘れて、ただ一心不乱に時間と戦う。

 そして昨晩からの戦いに打ち勝ち、書き上げた文章の見直しまで終わったのは二十三時五十分頃だった。


 私は慌ててブラウザから「応募フォーム」というページを開き、先程書き上げた文書を添付、必要事項を入力する枠を全て埋めた。

 入力ミスなどの不備の有無を確認し、「応募」のボタンをクリックしたのが、二十三時五十八分。「応募を受け付けました」の画面が表示されたところで私は漸く一息吐けた。私はパソコンを開いたまま、その場で仰向けになる。

 そうして休む姿勢を取ったのも束の間。時刻が零時を回ると同時にスマートフォンからは大量の通知が溢れ出す。


 画面上では、疲労に見舞われている自分の気も知らず、新年を祝うメッセージの通知が雪崩れ込んでいた。

 返信は後回しにし、一先ず眠ろうと私は瞼を閉じる。その時だった。


 私のスマートフォンが鳴り響く。

 メッセージの受信音ではない、電話の着信音だ。

 私は慌てて飛び起き、画面で受信先を確認する。そしてため息を吐いてから、渋々電話に出た。


「はい」

『あけましておめでとう!』


 私の数倍は明るい、男性の声がスマートフォンから響く。深夜とは思えない元気さだ。


「おめでとうじゃないよ。こっちはギリギリまで締切と戦ってたんだから。知ってるでしょ?」

『だろうと思って、日付変わってからかけたんでしょ~。沙織さん、いっつも時間と戦ってるんだから』

「うるさいなぁ。で、挨拶だけ? 私、眠いんだけど」

『ああ、待って待って!』


 相手の上機嫌さに少々げんなりとしながら私は電話を切ろうとする。すると慌てたような制止の声が返って来た。


『折角締切越えたんだし、息抜きに初詣行こうよ! 今から!』

「……正気?」


 相手の提案に、私は低く呻いたのだった。




 家の外に出ると、停められた一台のタクシーがある。その後部座席のドアが開き、一人の男がそこから身を乗り出した。


「沙織さん! あけおめ」

「あけましておめでとう。和也さん」


 手招きをされ、タクシーへ乗り込む。

 私たちはそのまま、地元の大きな神社へと向かった。


「どう? 文学賞の手応えは」

「あったことなんて殆どないよ。そういうものでしょ」

「違いない! で、あった時に限って落ちてる」

「ちょっと、やめてよ」


 小説をコンテストに応募したばかりの人間に縁起でもないことを言う和也さん。私は彼を睨んだ。

 「ごめんごめん」と、彼は電話越しと変わらないテンションで謝罪した。


「でもなぁ。そろそろどこか引っ掛かってもいいと思うんだよなぁ。文章力も面白さも申し分ないのに」

「どうだかね」


 和也さんは私と同年代、十年来の付き合いだ。

 きっかけは十年前、小説執筆という共通の趣味を介してインターネット上で繋がりを持ったこと。作家という同じ夢を私たちは一緒に追いかけた。

 そんな彼は五年前、とある文学賞を受賞して作家となり、以降何作ものヒット作を出す大物作家となった。

 一方の私は、今も結果は何一つない、ただの『作家志望』止まり。三十になろうとしても未だに夢を諦められない、惨めな大人を続けている。

 いつの間にか開いてしまった大きな差を改めて痛感し、私はため息を吐いた。


 大勢で埋め尽くされた道を逸れないように二人で進む。

 途中、気まぐれな和也さんが「お腹減った!」と言い出したので豚汁の屋台に並び、私は一緒に売っていた甘酒を買った。


「……歳なんて取りたくないね」

「どうして?」

「皺が増える」

「それは仕方ない」


 冗談を言えば和也さんがけらけらと笑う。

 その空気に重い気持ちが少しだけ軽くなった気がして、私は続けた。


「歳を取る度に『もう○歳なのに、みっともない』って、そう言われてるような気持ちになる。」


 豚汁のカップに口を付けてから和也さんはほっと息を吐く。そして私を横目で見て優しく微笑んだ。


「でも、やめられない」


 私は頷く。


「仕方ないよ。そーゆー生き物だもん。俺たち……特に作家なんてさ」


 和也さんはご飯を食べるのが早い。あっという間に豚汁を平らげた彼は近くに設置されたゴミ袋にカップを捨てた。


「考えたって仕方ないけど、うだうだ考えちゃう。だから書き続けるしかない、そういう星の元に生まれたワケ」


 和也さんの話に耳を傾けながら、私は甘酒に口を付ける。

 温かくて、優しい味がした。


「書いてよ。せめて、『やっぱやめた!』って、バッサリ諦められるまではさ」


 私は一つ息を吐く。

 体は疲れているしとても眠いけれど、初詣には来てよかったとぼんやり思った。


「いつまで夢追いかけてるんだって言われたり、自分で思っちゃったりすることもあるかもしれないけどさ、俺は待ってるから」


 同じ立場で、共に走って来た友人だからこそ、和也さんの言葉は私の心の奥底に響いていた。


「本屋にお互いの本が並んでるとこ、見たいじゃん」

「うん」

「頑張ろうね」

「うん」


 涙腺が緩んだ拍子に出そうになった鼻水を慌てて耐える。

 その音を誤魔化すように「酔ってるから」などと、見え透いた言い訳を並べれば、「甘酒で?」と、また和也さんが笑う。

 歳を重ねる程、世間体を気にしなければならなかったり、安定を求めることが常識とされる節は、どうしたって今の世の中に存在する。

 けれど本当に叶えたいことがあるなら、その空気に負けず、進み続けるだけの勇気も必要なのだろうと、私は思った。


 新しい年の幕開けは、少しだけ強くなった自分と、戦友と共に。

最後までお読みいただきありがとうございました!


もし楽しんでいただけた場合には是非とも

リアクション、ブックマーク、評価、などなど頂けますと、大変励みになります!


また他にもたくさん短編をアップしているので、気に入って頂けた方は是非マイページまでお越しください!


それでは、ご縁がありましたらまたどこかで!

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