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第6章 違和感

 再会から数日が経った。


 決められた手続きを踏んで、決められた時間だけ会う。それが、今の「日常」になりつつあった。


 彼女は落ち着いていた。


 分からないことは聞く。けれど、深追いはしない。答えが曖昧でも、それ以上は求めない。


 その距離の取り方は、以前と同じ――

 そう思おうとすれば、思えた。


「今日は何してた?」


 向かいの椅子に座った彼女が聞く。


「大学行ってた」


「そっか」


 笑い方も、声の調子も同じだった。


 違和感は、会話の中にはなかった。


 もっと別のところにあった。


 コーヒーを買ってきたとき。


「またブラック?」


「そうだけど、なんで?」


「よく飲めるね。苦いだけじゃん」


 軽い調子だった。冗談の延長みたいに聞こえた。


 でも、その一言が胸に引っかかった。


「この間も言ったけど、慣れてるからね」


「前にも聞いたっけ?」


 思い出そうとしているというより、整理している言い方だった。


「いや、どうだったかな」


「何それ」


 話はそれで終わった。


 以前なら、終わらなかった会話だ。


「それで、次はいつ来る?」


「明後日かな」


「分かった」


 それだけ。


 無駄がない。

 その無駄のなさが、少しだけ怖かった。


 帰り道、駅の構内で広告が目に入った。


《日常を、止めないために》

《定期バックアップ受付中》


 明るい色使いのポスターだった。


 日常を、止めない。


 止まったものと、止まらなかったもの。その境目が、分からなくなってきていた。



---



「最近、夢を見ないんだ」


「夢?」


「うん。寝てる感覚はあるんだけどね」


「ねえ」


「ん?」


「私、迷惑かけてない?」


「どうして」


「来てもらったり、時間使わせたり」


「迷惑なら……来ないよ」


 そう言うと、彼女は少しだけ安心した顔をした。


「ありがと」


 その言葉が、軽すぎて、重かった。


 同じ言葉。

 同じ声。


 でも、どこかに線が引かれている。


 同じはずなのに、同じじゃない。


 面会が終わり、白い廊下を歩きながら思った。


 もし、あの夜の問いを、今の彼女に投げたら。


 どんな顔をするだろう。


 その想像は、途中で止めた。


 まだ、そのときじゃない。


 違和感は、静かに積み重なっていく。

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