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君の隣で、世界が静かになる  作者: 海鳴雫


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第29話 再会の日

朝の光が夏を告げるように眩しかった。

 高瀬彰人は、駅のホームに立っていた。

 新幹線の到着時刻まで、あと三分。


 胸の鼓動が、妙にうるさく感じる。

 何度もスマホで時刻を確認し、

 無意識に髪を直す。

 ——こういうのは、柄じゃねえな。

 そう思いながらも、

 彼の指はまたポケットの中で震えていた。


 汽笛が鳴り、風が吹き抜ける。

 銀色の列車が滑り込むように止まり、

 ドアが開いた。


 人々が次々と降りていく中、

 その中に——いた。


 少し日焼けした肌、

 前より短く切った髪、

 そして、見慣れた笑顔。


 「……凜音」


 彼女がこちらに気づき、

 ぱっと顔を明るくした。

 「彰人……!」


 その瞬間、

 周囲のざわめきが全部消えたように感じた。


 何か言葉を探したけれど、出てこない。

 凜音が数歩近づき、

 そっと彼の胸に顔を埋めた。


 「やっと……会えた」

 その小さな声が、

 すべてを語っていた。


 彰人は、ゆっくりと腕を回す。

 その手のひらに感じる温もりは、

 夢でも幻でもなく、確かな“今”だった。


 「ずっと、会いたかった」

 「俺もだ」


 短い言葉しか出てこなかったけれど、

 それで十分だった。


 二人は地元の商店街を歩いた。

 懐かしいパン屋の匂い、

 いつもの自販機、

 夏の青空。


 「ここ、変わってないね」

 「だろ? お前がいない間、みんな静かすぎてさ」

 「ふふ、私がそんなにうるさかった?」

 「まあな」


 凜音が笑い、

 彰人も思わず笑みを返す。


 その笑顔の中に、

 遠距離での不安や寂しさが、

 少しずつ溶けていくようだった。


 昼下がり。

 二人は河川敷のベンチに腰を下ろした。

 蝉の声が遠くで響く。

 風が頬を撫で、凜音の髪が揺れた。


 「ねえ、彰人」

 「ん?」

 「離れてる間、たくさん考えたの。

  私たち、どうなるんだろうって」


 彼女の言葉は静かだった。

 「でも、今日こうして会って……やっと分かった。

  どんなに遠くにいても、

  私、あなたのことを想い続けられる」


 彰人は、しばらく黙ってから小さく息をついた。

 「俺もさ、ずっと怖かったよ。

  東京の空の下で、お前が別の誰かと笑ってたらどうしようって。

  でも、今こうして隣にいるお前見たら……

  そんな不安、どうでもよくなった」


 凜音の瞳が潤んだ。

 「彰人……」

 「これからも、たとえ離れてても。

  ちゃんとお前を守る。言葉でも、時間でも。

  何があっても、お前を信じる」


 その言葉に、凜音の涙がひとすじ流れた。

 「ありがとう。

  私も、あなたを信じて生きていく」


 二人の手が、そっと重なった。

 その温もりは、

 過去の不安をすべて溶かしてくれるように穏やかだった。


 やがて空を見上げると、

 夏雲が流れていく。


 「ねえ、彰人」

 「なんだ?」

 「こうして並んで歩く時間を、ちゃんと大切にしたい」

 「……ああ、約束だ」


 彼女の笑顔に、

 彼は静かに頷いた。


 もう、何も言葉はいらなかった。

 ただ、この瞬間の息づかいが、

 ふたりの愛の証そのものだった。


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