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君の隣で、世界が静かになる  作者: 海鳴雫


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第2話 生徒会長の謝罪

桜の花びらが、校舎の屋上から吹き抜ける風に乗って、ゆっくりと落ちていく。

 翌朝の教室は、いつもと変わらぬ喧噪に包まれていたが、桐島凜音の心だけは、どこかざわついていた。


 昨日——あの路地裏で、自分を助けてくれた高瀬彰人。

 あのときの彼の瞳は、怖いほどに真っすぐで、どこまでも静かだった。

 “助けるためだけ”に動いた、そんな目をしていた。


 (私は、あの人を誤解していた……)


 凜音は机の上で指を組んだ。完璧であろうとする自分の性格を、初めて“恥ずかしい”と思った。

 生徒会長としての責任感が、いつの間にか「正しさ」という名の偏見を生んでいたのかもしれない。


 昼休み、凜音は決意を胸に、彰人の教室の扉をノックした。

 ざわめくクラスの空気が、彼女の登場で一瞬静まり返る。


 「桐島さん!?」「生徒会長がここに!?」


 そんな囁きが飛び交う中、凜音はまっすぐ彰人の席へと歩いた。

 彼は窓際の席で、ぼんやり外を眺めていた。

 その横顔は穏やかで、昨日の出来事などまるでなかったかのように見えた。


 「高瀬くん、少し話がしたいの」

 「……俺に?」

 「ええ。昨日のお礼と……謝りたいの」


 教室が再びざわついた。

 「謝る?」という空気が一気に広がる。凜音はそれを無視し、静かに頭を下げた。


 「あなたのこと、見た目だけで判断していた。本当は優しい人だったのに、誤解して……ごめんなさい」


 彰人はしばらく無言だった。

 その沈黙に、凜音は胸の鼓動が速くなるのを感じる。


 やがて彼は、少し困ったように笑った。

 「顔が怖いのは、俺のせいだから。別に気にしてないよ」


 その笑みは柔らかく、しかしどこか遠かった。

 彼の中にある“距離”——それは他人を責めない代わりに、近づかせないための壁のようだった。


 「でも……私、放っておけないの」

 その言葉に、彰人はわずかに目を細めた。

 「放っておいてくれた方が楽なんだけどな」

 「そうかもしれない。でも、私は生徒会長だから」


 言葉の表面は冷静でも、胸の奥では別の理由が芽生えていた。

 “放っておけない”のは、生徒会長だからではない。

 彼の孤独そうな背中を、もう一度見たくなかったからだ。


 放課後。

 生徒会室で一日の報告をまとめながらも、凜音の頭の片隅には、ずっと高瀬彰人の姿があった。

 彼は、あの後どう思っただろうか。

 自分の謝罪を、どう受け止めたのだろうか。


 そんな思考を断ち切るように、扉がノックされた。

 「失礼します……」

 聞き慣れた低い声。顔を上げると、そこには彰人が立っていた。


 「生徒会長、さっきは悪かった。教室であんなふうに言わせて」

 「い、いえ。私は本当に謝りたかっただけで……」

 「そうか」


 短い沈黙。

 夕陽が窓から差し込み、二人の間に柔らかな橙色の影を落とす。


 「……あのさ。桐島さんって、いつも誰かのために動いてるよな」

 「え?」

 「生徒のためとか、学校のためとか。すごいと思う」


 彰人はそう言って、微かに笑った。

 だが、その笑顔の奥には、ほんの少しの寂しさが混じっていた。


 凜音はその表情を見て、ふと問いかけた。

 「高瀬くんは……誰かに頼ること、あるの?」

 「俺は、そういうの苦手なんだ」


 静かな声。

 まるで、自分の中にある過去を封じ込めているようだった。


 ——そのとき、凜音の胸に小さな痛みが走った。

 助けてくれた彼を、今度は自分が助けたい。

 そんな思いが、ゆっくりと芽を出し始めていた。


 夕陽が沈み、校舎が夜の色に染まるころ、

 凜音は気づく——

 自分が“生徒会長”としてではなく、“一人の少女”として彼に惹かれ始めていることに。

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