表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の隣で、世界が静かになる  作者: 海鳴雫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/31

第19話 この手を離さない

朝の校内は、異様な静けさに包まれていた。

 昨日の“事件”は、もう全校に広まっていた。

 「生徒会長が男子に平手打ちされた」「高瀬が止めた」

 そんな言葉が、廊下をすれ違うたびに耳に刺さる。


 凜音は小さく息を整え、職員室へ向かった。

 その先に待っているのは、生徒指導会議——

 校長、教頭、学年主任、そして生徒会顧問。

 彼らが、「桐島凜音の適格性」を審議する場。


 ドアの前で立ち止まると、

 手のひらが汗で湿っていることに気づいた。


 ——怖い。でも、逃げない。

 あのときの彰人みたいに、私は“行動で示す”。


 凜音は深呼吸し、扉を開けた。


 「桐島さん、座ってください」

 教頭の声は冷たくも穏やかだった。


 凜音は真っ直ぐに椅子に座り、

 両手を膝の上で組んだ。


 校長がゆっくりと口を開く。

 「昨日の件は、非常に残念です。

  あなたが暴力を受けたことはもちろん問題ですが、

  その原因があなたと高瀬くんとの“交際関係”にあると見なされています」


 凜音は唇を結んだ。


 「生徒会長として、公私の区別をつけられないのは問題です」

 「このままでは、生徒の信頼を失いかねません」


 ——わかってる。

 その言葉のひとつひとつが、

 自分の立場を削り取っていくのが分かる。


 けれど、

 もう誰かに守ってもらうだけの自分ではいたくなかった。


 「……失礼ですが」

 凜音は静かに口を開いた。


 「私は、何も間違っていません」


 場の空気が凍る。

 教頭の手が止まり、校長が眉をひそめる。


 「高瀬くんとお付き合いしているのは事実です。

  でも、それを理由に“信頼を失う”というのは違います。

  彼は誰かを傷つけたことがありません。

  昨日も私を守るために、怒りを抑えてくれたんです」


 凜音は深く息を吸った。


 「もし“生徒会長”が誰かを愛してはいけないのなら、

  私はそんな立場に未練はありません。

  でも——彼を隠してまで、席にしがみつくような真似もしたくない」


 その瞬間、

 校長の眼差しが変わった。

 静かな沈黙が流れる。


 「……桐島さん。

  あなたは、どんな立場であっても自分の信念を貫くつもりですか?」


 「はい。私は彼を、愛しています」


 その言葉が放たれた瞬間、

 会議室の空気が一変した。


 凜音の心臓が早鐘のように鳴る。

 でも、不思議と怖くなかった。

 ——ようやく、胸の中の真実を口にできたから。


 「わかりました」

 校長はゆっくりと頷いた。

 「本件については、正式な処分ではなく“注意”という形にとどめます。

  ただし、あなたは生徒会長としての立場を自ら再定義する必要があります」


 凜音は深く頭を下げた。

 「ありがとうございます。必ず、行動で示します」


 会議が終わり、校舎を出ると、

 グラウンドの向こうに彰人の姿が見えた。


 夕陽が赤く差し込み、

 彼の背中を金色に染めている。


 凜音は迷わず走った。

 冷たい風を切りながら、ただ彼の元へ。


 「彰人!」


 振り向いた彼の目が驚きで見開かれる。


 「……凜音?」

 「全部、言ってきた。

  あなたのことも、私の気持ちも、全部」


 彰人は一瞬言葉を失い、

 それから、ゆっくりと微笑んだ。


 「……そうか」


 凜音は彼の手を取った。

 「誰が何を言っても、私はあなたの隣にいる。

  生徒会長でも、優等生でもなく、ただの“桐島凜音”として」


 彰人はその手をぎゅっと握り返した。

 「俺も、もう隠さない。

  どんな目で見られても、お前を守る」


 二人の手の間に、

 冬の冷気が流れ、そして溶けていった。


 遠くでチャイムが鳴る。

 その音は、まるで新しい世界の合図のように聞こえた。


 凜音は微笑んだ。

 「彰人、私ね——もう怖くない」

 「俺もだ。

  お前が俺を信じてくれたから」


 夕焼けの光が校庭を染める。

 二人の影はゆっくりと重なり、

 まるで一つの形になるように、寄り添っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ