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君の隣で、世界が静かになる  作者: 海鳴雫


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第15話 声にならない怒り

昼のチャイムが鳴り終わったあと、

 教室の空気がやけにざわついていた。


 「なあ、聞いたか? 桐島会長の活動リスト、修正されたって」

 「高瀬の名前、消えてたらしいぜ」


 その一言で、彰人の頭の中が真っ白になった。

 手に持っていたシャープペンが、指の間で折れた。


 「……は?」


 椅子を引く音が教室に響いた。

 周りがざわめく。

 彼は何も言わずに立ち上がり、教室を出た。


 ——嫌な予感はしていた。

 “苦情”だとか“印象”だとか、

 そういう言葉の裏にあるものを、もう知っている。


 けれど、

 それが“凜音の選択”じゃないことだけは、分かっていた。


 生徒会室の扉を開けると、

 中では会議が終わりかけていた。


 椎名副会長が立ち上がり、凜音と話している。

 凜音の表情はいつもより硬く、目の下には疲れの影があった。


 「——高瀬くん、来たのね」

 凜音が気づいた瞬間、空気が張り詰めた。


 彰人は真っ直ぐに彼女を見た。

 「どういうことだ。

  俺の名前、リストから外されたって聞いた」


 凜音は小さく唇を噛んだ。

 代わりに、椎名が前に出た。


 「高瀬、落ち着け。今回の判断は外部の要請だ。

  お前個人のせいじゃない」


 「そんなの、わかってる!」

 怒声が会議室に響いた。

 椎名が一瞬たじろぐ。


 「わかってるけどよ、

  だったら誰が俺の名前を消したんだ!

  俺が何をした?! 真面目にやってただけだろ!」


 凜音が立ち上がり、震える声で言う。

 「お願い、彰人、やめて……」


 「凜音、これでいいのかよ。

  “外部の意向”なんて言葉で、

  お前まで俺を切るのか?」


 彼女の肩がぴくりと揺れた。

 目を伏せ、何も言わない。


 「俺は——お前を信じてた」

 その言葉に、凜音の瞳が一瞬だけ濡れた。


 「信じて。

  本当は、私も……」

 「なら、何で黙ってたんだ!」


 彰人の声が震える。

 怒りと悲しみと、どうしようもない無力感が胸を焼く。

 彼女を責めたいわけじゃない。

 でも、もう限界だった。


 「俺は、お前を守りたかっただけなんだ」


 沈黙。

 凜音の唇がかすかに動く。


 「……私も、守りたかった。

  あなたを——生徒会長としてじゃなく、“彼女”として。

  でも、今の私はその立場を捨てられないの」


 その言葉が、

 まるでナイフのように胸に刺さった。


 椎名が静かに間に入る。

 「高瀬、今日はもう帰れ。

  お前の努力は、ちゃんと俺たちも見てる」


 彰人は歯を食いしばり、

 机を叩いた。


 乾いた音が会議室に響き、

 紙束が揺れ、凜音の肩も小さく震えた。


 「努力なんて、誰も見ちゃいねぇよ」


 そう言い残して、彼は部屋を出た。


 夕暮れの廊下。

 窓の外では、陽が落ちるのがやけに早く感じた。

 胸の奥がまだ燃えている。

 怒りというより、悔しさだ。


 どれだけ頑張っても、

 見た目一つで判断される。

 “会長の恋人”というだけで、

 価値のない存在にされる。


 ——俺の何を見てんだよ。


 拳を握る。

 でも、誰を殴るわけにもいかない。

 ただ、息が荒くなる。


 そのとき、

 背後から小さな足音が聞こえた。


 「彰人——!」


 振り向くと、凜音が走ってきた。

 息を切らしながら、必死に彼を見上げている。


 「ごめん、何もできなくて……」

 「お前のせいじゃねぇ」

 「でも、あなたがあんな顔で出ていくの、嫌だった」


 彼女の声が震える。

 凜音はその場で足を止め、

 涙をこぼした。


 彰人は何も言わず、

 そっと彼女の肩を抱き寄せた。


 「……俺、怒ってた。

  でも、それ以上に怖かったんだ。

  このまま、お前を失うんじゃないかって」


 凜音は小さく頷いた。

 「失わない。

  私は、あなたを失わない」


 廊下の窓から、冬の光が差し込む。

 その光が二人の影を重ね、

 長く、柔らかく、床に落ちた。


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