008-間抜けなゴブリン共がしかし正確に作戦を成功させて俺の苦労を水の泡にしないために努力してるのをまあまあの評価点で評価してやってる、ゲケナがいればやはり雑魚でも強兵か。
夜。
シオモナ山にあるカイメラ湖にて、ゴブリン工兵小隊が動いていた。
古の時代、シオモナ神がその腕に抱えた壺からこぼした水がカイメラ湖となった伝説が残るのこの地は、水質が非常によく流れの穏やかな川が下流へと流れていく地でもあった。
「迅速に行え! 上手く汚染させられぬ可能性がある!」
そんな聖なるカイメラ湖も、現代においては単なる湖に過ぎない。
ゴブリン工兵たちが抱えてきた木箱、中はコーティングされており、粉末状の毒が入っていた。
間違って吸わないように、工兵たちは粗末なマスクをしていた。
例え微量でも体内に入ってしまえば、即座に血中へ入り込み、神経毒で苦悶の後に死ぬこととなる恐るべき毒だ。
今回のものも、軍団長が作り置きした毒果のうち数個を換装させ、細かく砕いたものである。
川の流れは遅いものの、夜の始めのこの時間に湖を汚染すれば、半日後にはピオラに届く。
その時間は丁度、ピオラの朝に当たる。
朝、昼、夜。
煮炊きや洗濯、顔を洗ったり、歯を磨き、一日身体を維持する水を飲むその時間に。
最も水を使うその時間に。
「しかし、こんな簡単な策で勇者が殺せますか?」
「ハニエル軍団長様をやっちまったのに...」
ゴブリン・ソードマンたちが好き放題言う。
しかし、現場にいるゲケナは沈黙を守っていた。
主が表立って批判をすれば、彼等もまたそれに乗ってしまう。
だが、反論材料をゲケナは持っていない。
「(ハオがもし、魔王に説明したとおりにやるのなら。これは第一段階に過ぎない)」
毒を流すのは、あくまで第一段階の話である。
そもそもそれだけなら、工兵を使う必要自体が無いのだから。
「(それより.....)」
彼女の頭の中には、ハオへの興味が勝っていた。
基本的に、ゴブリンというのは力強く、そして精悍な者が尊ばれる。
キングが死に、最も醜いとゴブリンたちから揶揄されたゲケナがジェネラルゴブリンとして上に立ったのだ。
魔王がわざとそうした。
揶揄されながら続けることで、増長しないようにしたのだ。
当然ハオと初めて会った時、彼も自分を揶揄し、見下しながら話すのだとゲケナは考えていた。
しかし、彼はそうしなかった。
「(それに、ハオは.....)」
「俺について来い」とハオはゲケナに言った。
それは、ゴブリンの男が女によくやるプロポーズだ。
ハオは理解していない様子だったが、ゲケナは嬉しかった。
嫁に行く先が出来たと、死んだ両親に報告したい気分になったのだ。
「(この作戦が成功したら、ハオを軍団長に推薦しよう)」
数年ぶりに恋する乙女の心を取り戻したゲケナは、そんな内心を全く表情に表すことなく結果を待つ。
そして――――
「おお!」
「成功だ!」
湖から、夥しい数の魚が浮かび、暴れることで水しぶきが立つ。
ここまで汚染されれば、最早人間にはどうしようもない。
副次的な効果で、人間を虐殺できる。
これだけでも、魔王に報告するには十分な戦果であるが......
しかし、今回の任務は勇者殺害である。
やがて、水しぶきは徐々に収まっていく。
体の小さい魚ではこの程度だが、人間は何十時間も苦しむ。
そんなものを平然と使う冷酷さに、ゴブリンたちは改めて恐れを抱く。
しかし、どこかで見下していた。
ゴブリンとはそういう種族なのだ。
「撤収」
「はっ、撤収!」
ここでの仕事は終わった。
ゲケナの指示に従い、ゴブリン工兵小隊は迅速な撤収を開始した。
木箱は残さず、そのまま抱えて。
何一つのいた証拠を残さずに、徹底して撤収した。
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