003-勇者は強大な存在だと耳がクソ痛くなるほど聞かされたがそもそもお前らに勝機など最初からなかったのだ、俺様が来たからにはこんな奴は一撃で縊り殺してやれることを覚悟しろよ
ゲケナから、俺は勇者の情報を聞く。
初めて確認されたのは、最南端の都市アートリとナジェドラの間にある村だそうだ。
当時は魔王軍が王都を包囲していたが、勇者がナジェドラを解放したことで一度撤退したんだとか。
軍団長(脳筋)が死んだのはナジェドラ解放戦の敗走戦で、ゲケナは軍団長であるトレントの男が勇者との死闘の末に敗れたと言った。
「勇者はまず、どんな毒でも効かない祝福を得ている」
「ほう」
まずいな。
俺の策が使えないだろ。
チートだよな、チート。
いつもこういう力を授かるのってのは体制側ばっかりだな、不公平だ。
「軍団長は毒の使い手で、軍団長にしか使えない毒がいくつかあった。少しだけ保管されている、でも私たちの権限では使えない」
「だが、毒が効かない程度で負ける男ではないんだろう?」
「そう。勇者は再生能力も持っている。殺しても、彼が諦めない限りは決して死なないと聞く」
「そうか」
なら、話は簡単だ。
俺の天才的な頭脳が導き出す答えはただ一つ。
「死にたいと思わせれば良いんだろう、一夜でな」
「っ...貴様、馬鹿にしているのかっ!」
ガテガがキレるが、俺は気圧されない。
俺は間違っていない。
俺にできないことなんて、俺の才能と知識の範囲外のことだけだ。
つまり、沢山ある。
だが、材料はもう揃っているじゃないか。
「勇者の武技はどの程度だ?」
「止まって見えるほど。けど、聖剣を抜けば、目にも止まらない」
「なるほど」
先ほどから頻出する聖剣という単語。
これについて聞く必要があるな。
「聖剣とは何だ?」
「女神が勇者へ与える武器。相応しい素質があるものが持てば、その決意に応え力を与える。また、勇者の願う通りに形を変えるとも」
「これはまた...不思議なものだな」
物理法則まで無視するとなると厄介だな。
一応聞いておくか。
「ゲケナ、君が勇者と戦った場合、何秒くらい持ち堪えられる? それとも、勝てるか?」
「...勝つだけなら、簡単。けれど、再生されたら意味がない」
「充分だ」
「仲間も居る、白魔法使いと重戦士。私たちでは勝てない」
「いいや?」
「...えっ?」
別に、真正面からぶつかって勝つ必要は全くない。
彼女に勇者と戦って勝てるかと聞いたのは、作戦が成功してからの事だ。
何しろ俺は別に武芸に秀でているわけじゃないからな。
こんな策で勝てるなら、その程度の相手だ。
俺は黄金の脳みそを持つ男だが、しっかり練らずに案を実行に移すというのは難しい。
その辺が本物の天才とは違うのだ。
「ゲケナ、君が欲しい」
「えっ」
俺は一歩寄って、ゲケナにそう言う。
無表情だった彼女の頬に、赤が差した。
でも不潔なんだよな...
「君が必要だ、魔王に掛け合うのが必須だろうが」
「...私を、どうするの」
「無論、俺について来てもらう」
ゲケナの表情が強張る。
「貴様、それがどういうことか理解しているのか?」
「知らないな、だが...彼女が必要だ。他の誰も彼女に匹敵しないだろう」
ここまで話して、俺は理解した。
彼女は「使える」。
魔王の許可さえ降りれば良いわけだ。
俺は特別な立場であるし、彼女一人失って立ちいかなくなるようでは軍として失格だ。
「す...末長くよろしくお願いします...」
「まだ分からないな」
ゲケナはそう言ってくれたが、まだ不確定要素は多い。
魔王が却下すればそれまでだし、勇者が俺の想定を上回ってしまったら二人共々ヴァルハラ行きだ。
いや、俺は地獄行きだな。
地獄も案外悪くないに違いないが。
何しろ地獄から帰ってこれれば、俺は人気者だ。
入り口があるなら出口もあるだろ。
「そう簡単に死んでやるつもりもないが」
俺はそう言うと、脳内で作戦をより綿密に練り始めた。
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