014-魔王が俺に当たり前の質問をしてきやがった、おめーら魔王軍の全員の智謀より俺の方が上回ってるに決まってるだろ、だが俺は一応常識人なので社交辞令で返しておくことにする
勇者の首を回収した俺は、魔王城に戻ってきていた。
首と奪った魔剣を見せると、魔王は表情を変えた。
「貴様、本当に.......」
「ええ。言葉通りに。.....魔剣は俺に恭順したので、お渡しできないのは残念ですが」
「よい。しかし、どのようにして勇者を殺したのか?」
「言った通りに。貴方様に説明したとおりに、全てを実行しました」
「軍団長が出来んかったことを、何故力も無い貴様が出来るというのじゃ!?」
フフフ、俺が黄金の脳みそを持つからさ。
そう言いたかったが、一応は俺は面従腹背の身だ。
「言ったはずでは? 人を殺せるのは人だけです」
「.....言葉の綾ではなかったと言うのか?」
「勇者を追い詰め、人間にしか理解できない弱点を突きました。インプたちに作らせた竜の糞と適当な内臓を急速発酵させた糞爆弾により、勇者はまともに立っていられないほどの状態になり、真っ向から戦わなくとも勝てました」
「じゃが、勇者には悪い影響は.....」
「ですから、臭いとは悪い影響ではないのですよ。毒や混乱のようなものではないのですから」
外部的要因から来る不快感でしかない。
それによって齎される吐き気や頭痛、粘膜への刺激痛は「状態異常」ではないのだ。
勿論俺も馬鹿じゃないので、実行前にわざと試してみたことがある。
トイレが詰まったと言って、手伝わせたのだ。
ウォードが先に手伝ってくれたが、後から来た勇者も顔をしかめていた。
あの地獄みたいなトイレの臭いに反応していたなら、効くはずだと分かった。
「.....貴様の智謀は、妾を凌駕するという事か?」
「それ程の物ではございませんよ、ただ、俺は人間の弱点を少しばかり知っていただけの事。勇者が本物の戦士として覚悟を決めていたのならば、俺の方策は全て外れており、魔王様は貴重かつ優秀なゴブリンの配下を一人失っていたのです」
「..........」
ここは褒める所だな。
誉めてやろう。
「優秀かつ貴重で忠誠心が高く、そして統率力と配下の管理力に長けたゲケナ将軍は、稀代の優秀な者といって差支えない筈です。そのような替え難い者を、俺のような新参者の、実力も分からぬ将に貸し与えてくださったその度量に感謝を示したいと存じます」
「あ、ああ.....妾も、貴様に少しは餞別をやろうと思い、そうしたまでだ」
まあ、嘘だろうな。
ゲケナくらいの将兵ならいくらでもいるんだろう。
人間と事を構えるくらいだ、軍全体として優秀なんだろうな。
「....よい。無茶な条件であったことは妾もずっと後悔していたことじゃ、褒美を取らせよう」
「はっ」
ようやく帰れるぜ。
ゲケナに、魔杖まで付いてくるなんてな。
これ以上何があるんだろうか。
「貴様を、自然軍の軍団長へ昇進させる」
「.....俺は元の世界へ戻りたいのですが?」
「分かっておる。しかし、今のままでは貴様は戻れぬ可能性がある」
「何故です?」
「勇者を殺し、聖剣を穢したのじゃ。女神に目をつけられておる、転移を阻害され、虚無の座標へ飛ばされてしまうかもしれぬ」
それは確かに厄介だな。
そして、真の黒幕がはっきりしたな。
女神とか言うやつが、俺の大好きなクッソ野郎という事らしい。
「その言葉、偽りはありませんか?」
「妾も、貴様を失いたくはない。しかしもう勇者が現れぬ以上、貴様を持て余しておる。捨て駒にしたことは謝罪しよう」
魔王は頭を下げた。
こういうやつが頭を下げるんだ、信じてやってもいいか。
「持て余した貴様を、元の世界に戻したいというのは吝かではない。しかし、女神の妨害がある以上は、貴様の願いをかなえてやれるかは分からぬ。転移の座標をずらされるだけならともかく、儀式の場において何らかの事故が起きる可能性もあるのだ」
「成程」
相手は文字通り神だもんな。
いい、いいじゃないか。
ブッ殺して聖剣のように力を奪ってやり、地球に改めて侵攻すればいい。
悪くないな。
「そして、貴殿の軍団長昇格に際して、推薦者であるゲケナに褒美を与えよう」
「はい」
「ゲケナ、貴様は将軍の地位を召し上げ、副官へと降格する。ハオに仕え、自然軍の今後の進軍を補佐せよ」
お?
ゲケナが本当の意味での配下になるんだな。
前は立場的にはゲケナが上司だった。
実質的には俺が主だったがな。
だが、何故褒美なんだ?
褒美には到底思えないが....
ま、本人が納得してるならいいか。
「よろしいのですか?」
「なに、優秀な者は優秀な者の下につけてこそ輝くものであろう?」
「真にございます」
俺が上司か。
それならせめて、風呂くらい入るように命令できるかね?
まあ、ともかく.....
俺はまたしばらく、この世界で生きるしかないらしいな。
クソみたいに臭い世界だが、やはり――――浮浪者よりマシだな。
「最後に一つだけ、お主に褒美を取らせようと思う。何がいい?」
「では、酒宴を開いていただけますか」
「お主にも、そのような俗な欲があったとは」
「いいえ、今回の功労者たちを労いたいのです。軍団長になったからには、ある程度自然軍に知名度を得ておきたいので」
酒弱いのに俺が飲みたいだけで宴開くわけねえだろ。
まあ、脳筋の中で多少頭がいい程度ではこれが限度か。
ゴブリン工兵小隊たちを働かせたというのに何もしないというのは、組織自体に問題があるな。
規律あっての軍、兵あっての軍だ。
それが出来ないなら軍隊を名乗る資格もねえよ。
「ふむ、貴殿はもしや異世界の将か?」
「さて?」
やっぱりこいつは脳が筋肉で出来ているな。
後天的かと思ったが先天的だ。
察する力のないバカ女に付き合ってはいられない。
「では、俺はここで」
「.....うむ」
ゲケナを連れ、俺は魔王の間を後にするのだった。
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