表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/16

011-ハハハハハハハ!!!俺の完璧な作戦は見事大成功!状態異常に対する完全耐性があったとしても、悪臭には耐えられまい!やはり俺は天才、俺様を崇めよ、讃えよ!

 勇者は、一人ピオラから這い出た。

 その心中は、暗く濁り切っていた。

 街は既に、苦悶死体と吐瀉物、そして漏れ出た糞尿しか残っていない。

 水を飲んだ者は皆死ぬのだ。

 死体を漁っているネズミや虫の類もまた、いずれは死ぬ。

 そして。


「どうして、僕は.....」


 勇者の口から、言葉が漏れる。

 彼は、決して望んで勇者になったわけではない。

 村で祀られていた剣を抜き、幼馴染の友人、彼にとって最大の友人だった男の死によって 義憤にかられ、魔王軍を倒さんと出発したのである。


「セシル.....ウォード.......」


 勇者が助け、そして勇者について行くと宣言したセシル。

 金で雇ったが、本当は心配でついてきたと言い、洞窟の中で義兄弟の盃を交わしたウォード。

 二人の存在は、勇者の心を支えていた。

 だが、もはや彼は、勇者である事に嫌気がさしていた。

 セシルもウォードも死んだのだ。

 地獄絵図と化した室内にいられなくなり、勇者は街に出た。

 そこも地獄であった。

 ありとあらゆる汚臭がそこにあったのだ。


『今日はいいのを仕入れてるよ』


 そう言った果物屋の店主は、屋台の手前で吐瀉物の中に顔を沈めて死んでいた。


『ウチに泊まるのか? ありがとうよ』


 宿屋の店主は、宿屋の入り口で自分の頭をたたき割って死んでいた。

 そして今。

 勇者は、燃え盛る森を抜けて、唯一残った道を進んでいた。


「おい、大丈夫か!?」


 その時。

 声が響き、勇者は顔を上げた。

 その視線の先には、黒いローブがはためいていた。


「......オリ」

「森が燃えてるから戻って来たんだ、薬草は手に入ったが...」

「もう、不要だよ」


 勇者は首を横に振る。

 オリと呼ばれた男は、それを聞いて呆然とする。


「死んだ、のか?」

「そうだ......」

「そうか。なら――――話は楽だな」

「なっ!?」


 オリの信じられないような言葉を聞き、勇者は素早く剣を抜く。

 その顔は、戦士の顔だった。

 先ほどまでは、世を憂うただの農民の息子でしか無かった彼は、今この瞬間において戦士の義憤に目覚めたのである。


「おまえ、まさか.....!」

「なあ」


 勇者の問いは、オリではなくほとんどは自分に向けられていた。

 オリを信じた自分が間違っていたのか、と。

 だが、オリはその問いに答える気はなかった。

 彼が鞄から取り出した白く丸い物。

 勇者は一瞬警戒し、そしてすぐに身を改める。

 通常の武器では、勇者はたいして堪えない。

 近寄って、斬り殺してやると。


「内臓と糞尿の発酵した臭い、嗅いでみないか?」

「っ、ヘイスト!」


 勇者は一瞬で距離を詰める。

 だが、それより先にオリがそれを、勇者に投げつけた。

 爆発と共に、濃縮されたすさまじい汚臭が拡散する。

 オリはそれ――――臭いの爆発をローブで防ぎ、鞄から取り出したマスクをつけて距離を取る。


「ぎゃあああああ、おげぇええええええ!!」


 勇者は泣き喚く。

 鼻から染み込んだ刺激臭が脳を焼き、全身を虫が這いずり回るような悪寒が駆け上り、そして吐き気と、目を開けていられないほどの刺激。

 まともに動けず、彼はその場で蹲る。


「さあ行け、ゲケナ!」

「うん」


 直後。

 腐った竜の糞を踏みつけて、二歩目で液状化しつつある臓物を踏みつけ。

 接近したゲケナが、その銅の剣で勇者の身を袈裟斬りにした。

 不気味な静けさの中に、皮を断ち肉を斬る鈍い音が響き、夥しい血が舞った。


↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ