010-都市を焼き討ちして、ゴキブリの如く生命力だけはある勇者をつり出す完璧な俺の作戦は見事成功して、勇者が現れた。さあ、絶望しろ、そして死ぬがいい。
「では、始めたまえ」
俺はミテマにそう命じた。
それを聞いた彼は、鳴子を鳴らす。
どうやら魔法の品らしく、強く鳴らすことで合図となるそうだ。
手に持たないといけないのが不便な所か。
「本当に良いのですか?」
「もう始まってしまったことだ、なあ、ゲケナ?」
「異論はない」
森に火が放たれる。
もうすぐ冬になる森は少しずつ乾燥し始めている。
面白いように燃えるな。
だが勿論、何の細工もしていないわけではない。
俺が街にばら撒いていたあの種。
あれも、火気に接触すると爆発する種らしい。
それが森のあちこちにばら撒かれ、計算された爆発と燃焼を引き起こして着火点になっている。
そして、ここからは俺の仕事だな。
「ゲケナ」
「グール、マジックゲート」
「ファイアボール」
ゲケナがグールに命じ、グールが魔法の門を創り出した。
転移魔法の基礎らしい、遠隔地とこの場を繋ぐ門だ。
俺はそこに、魔法が使える杖でファイアボールを叩き込んだ。
これで、石造りの都市という火気のない場所に火気が発生する。
爆発が巻き起こり、魔法の門が焼失した。
「ミテマ、兵を撤収させろ」
「はっ!」
火計は上手くいった。
これで、森を使わなければ出られない都市の出口の二つが使えなくなり、一つが残る。
そしてその一つに、俺はわざと火が広がらないように手を打った。
もともと森なんぞはそう簡単に燃えるものではないと、俺の黄金の脳みそは知っている。
どうだ、賢いだろう。
退路を塞がれれば、勇者はそちらに逃げるしかない。
都市内部に生きている人間はもういないからな、自然とそうなる。
いやぁ、実行する側でよかったぜ。
ゲロ吐いて死ぬのだけは御免だからな。
俺は死ぬときは何百万人か巻き込んで死にたい。
現代版兵馬俑ってやつだ。
こんな田舎の街じゃダメだ。
もっとでっかくやらねーと。
「ゲケナ、ゴブリン・ソードマンを工兵小隊の護衛に回す。俺について来い」
「うん」
「なっ、ゲケナ様!」
「そんな弱っちい人間に!」
当然反発するよな。
俺じゃなくてゲケナを守りたくて来てんだろうから。
「ゲケナ、あいつらを――――」
「ふふっ」
あいつらを斬り殺せ、面倒だからと言いかけた時。
ゲケナが、微笑みながらあっちを向く。
効果は覿面だったらしい。
ソードマンが剣を取り落とす。
「行こ」
「......ああ」
なんか普通のゴブリン共とゲケナは空気感が違うよな。
まあいいが。
「勇者と戦うの?」
「いいや? それは俺の仕事ではない」
「......私が、ってこと?」
「お前が斬れ」
なんで俺が手を汚さなきゃならんのだ。
真の優秀な者とは、直接手を下すわけがないのだ。
天才共は、皆自分でやりたがるがな。
森をかき分けて、俺たちは勇者が逃げるであろうルートへ向けて移動する。
ローブを着てて正解だったわ。
ずーっとゲケナがくっついてるから、体臭が服に移りそうだぜ。
こいつらは体臭で相手を判別するが、強いものほど体臭が強くなるのは何とかしろよって感じだな。
体臭で嗅ぎわけるくせに鼻が悪いから、強い奴ほど臭いで分かりやすく、弱い奴は文字通り「空気」らしい。
怖い社会だな~俺は雑魚扱いか?
そんな事を考えていると、森の中へ出た。
もうすぐここにも火が広がるだろうが、今はそうではないだろう。
「私が?」
「いや、まずは勇者が来るまで待つ。その後、俺が行く」
そう言っていると、勇者が現れた。
さて、行くか。




