009-毒を飲んで死んでいく愚かな者たち、そして勇者は絶望する。まだ俺を信じているとは滑稽だが、勝者は最後に笑う者、俺は勇者に背を向け森へと戻る。
翌朝。
異変はすぐに起きた。
朝食を食べた後に、勇者パーティの内セシルとウォードがもがき始めた。
流石に勇者には効かないか。
まあ予想していたことだ。
「ど、どうすれば、セシルが」
「この症状、毒の気配がする。治療薬は?」
「もう飲ませた! だけど、効かないんだ!」
嘔吐した跡があるな。
おそらくは体外に排出するのを助ける薬だが、無意味だ。
あの毒は、水には溶けるが水分が抜けると残留するらしい。
元々の果物の性質として、そうやって獲物を毒で嬲り殺し、死体から芽を出すという。
だから俺は手持ちのものしか食べていなかった。
少しでも体内に入れば、いつまでも残留し続けるからだ。
引っ掛かったなァ!! 雑魚が!
「解毒薬が効かないという事は、風土病かもしれない」
「外でも色んな人が苦しんでる、こ、こんな同時に発症するものなのか?」
「分からないが、俺は俺に出来る事をする」
俺は立ち上がり、外へ向かおうとする。
「何を....するんだ?」
「解毒薬はないが、病気に対して有効な薬草を知っている。街の全員とはいかないが、助けて見せよう」
「.....頼む!」
「水を飲ませておけ、古い水ではなく新しい水を」
「....わかった」
まあ無理なんだけどね、初見さん。
仲間が死にそうなくらいで動揺している。
このタイプはやりやすくて助かるな。
「ぐげえええ!」
「め、目を開け、死ぬな、死ぬなあああ!!」
俺は静かに街を歩く。
そして、懐から取り出した種をあちこちに撒いていく。
街はひどいもんだな。
もがき苦しみ嘔吐する者、川に身を投げてうつ伏せで浮いている者。
親族や友が死に慟哭する者。
だが、無事な彼等も水を口にすれば同じように死ぬ。
いいや、発症が遅れているだけに過ぎない。
この毒のいい所は、揮発しない事だな。
毒なんて扱いを間違えれば水蒸気に混じって体内に入り自滅することもある。
「よし、これで全部だな」
他は木造だ。
俺は門へ向けて歩き出す。
俺を咎める者はいない、全員それどころじゃないからな。
あーはなりたくないな、全く。
「門が閉じている....?」
俺は門の前に辿り着くが、門が閉じていた。
朝の開門前に係が死んだか。
まあ、構わない。
俺は杖を構え、魔王に教わった魔法を使う。
誰でも使える魔法の杖、ただし回数制限アリだ。
「ファイアボール」
火球が目の前で膨れ上がり、門へ向けて放たれた。
それは派手な爆発を起こしたりすることなく、門の鉄格子をドロドロに溶かして俺の進路を切り開いた。
溶けた金属の上を歩かないようにして、俺は門を抜けた。
少し歩いてから、森の中へ入る。
「ハオ様」
「ああ、どうだ、進捗は」
ゴブリン・ソードマンの一人がそこにいた。
俺は彼に話しかける。
恐らくはゲケナの差し金だろう。
「ゲケナ様から伝言を預かっております、”コウヘイタイの包囲は完了”と」
「それでいい。ゲケナの所へ案内を頼む」
「はっ」
あの都市はもう終わりだ。
だが、俺の目的は都市を一つ落とす事ではない。
勇者を殺す事。
それには、勇者の判断力を奪い、戦う理由を奪い、奮起する気力を奪う事が必要なのだ。
如何に強くとも、心が無ければ人はザコ同然。
「なぜこのような、回りくどい手を?」
「勇者は最後まで、最後の死の瞬間まで魔王軍の仕業だとは思わない。そう思うように俺が仕向けたからだ」
勇者は俺の言ったことを信じている。
つまり、風土病だと。
人間は非常時に、信じたい事しか信じない。
俺は非常に頭がいいので、それをネットのおかげで知っている。
そして。
俺は準備がいい。
『これは....?』
『俺の故郷の酒だ、これから迷惑をかける故に振舞いたいと思っただけだ』
昨晩、俺は勇者たちに酒をふるまった。
だが勇者には効かない。
あの酒は、強烈な衰弱効果を齎すが、勇者は気付かない。
何故なら、状態異常を防ぐ効果は”防いだ”事には気付くが”何を防いだ”かは分からないからだ。
白魔法使いのセシルは、衰弱した状態で毒を受け、もはや意識混濁の状態にある。
ウォードも同様で、この事態に対処できる状態ではない。
白魔法がネックだったので、引っかかってくれて助かった。
まあ長ったるい説明はいいだろ。
森を抜け、秘密の陣地へと俺たちは出るのであった。
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