2つの世界
初めての短編です。
うまく書けないかもしれませんが宜しくお願いします。
「ミルさま、今日は英語・ドイツ語・フランス語とヴァイオリン、乗馬のおけいこがございます。」
淡々とした口調でリールは話す。
「いやよ。今日のおけいこは無しにして。」
どうしてこんなにもたくさんのお勉強をしなくちゃいけないの。
わたしはまだ10歳よ。
普通ならお外で楽しく遊んでる年齢じゃない。
「そうは行きません。次期後継者として教養は必要です。女王さまも心配なさっていましたよ。」
「ママがどうして心配するのよ?」
わたしのママは、魔界で1番大きな国―――妖樹国の女王様。 だから、わたしは妖樹国のプリンセスなの。
「後継は来週なのですよ。ミルさまがしっかりやっていけるか、と夜も眠れないご様子で……。」
ママに出来たんだから、わたしにだって出来るはずよ。ママはしっかり者だけど、あたしだって一応その血を引いてるわけだし。
「大丈夫よ。りっぱな女王になってやるんだから。」
わたしがちゃんとやってる姿を見たら、ママだってきっと見直してくれるわ。
「ミルさまがそんな風におっしゃるなんて。私、感動いたしました。」
リールが目に涙をためて言う。
わたし、どれだけ悪く見られてるのよ……。
「それではりっぱな女王になるため、おけいこを頑張りましょう。」
でも、おけいこだけはいや。つまらないじゃない。
こうなったら逃げてやるわ。
「そうね。でも、おけいこまでまだ時間があるからお散歩でもしてこようかしら。」
もちろん、こんなの嘘。
お散歩するふりしてお庭にでて、そのままお城の外に逃げるっていう作戦よ。
「いってらっしゃいませ。くれぐれも城の外には出ないで下さいよ。」
「わかってるわ。」
リールはにこやかに手を振っている。
ふん、メイドを騙すくらい簡単よ。
わたしはお庭に出ると城の裏に回りこんだ。
「いでよ、ほうき。」
ぼわん。
白い煙と共にほうきが現れる。
「飛ぶのよ。」
あたしはほうきにまたがった。
地面がどんどん遠ざかっていく。
「ばいばーい。」
お城に向かって手を振る。ほとんどが白くて、ところどころで金が輝いている。でもいくら立派なおうちだってつまらないものはつまらないわ。
どこに行こうかな。
どうせならうんと遠くに行ってやるんだから。
「パステック街まで行ってちょうだい。」
ほうきはものすごいスピードで南に向かって飛ぶ。
パステック街の人気の無い路地に下りる。
このドレスはなんとかしないと。プリンセスってばれちゃうもん。
「服の妖精さん、力を貸して。」
指を組んで目をつむる。
魔力の発生を感じて、目を開く。
あたしの服装は完璧に普通の住民。
こういうところでお買物してみたかったのよ。
果物屋さん、八百屋さん、魚屋さん……。
初めて見るものばっかりだった。
「ねえ、君名前は?」
あたしと同じくらいの子供達。
何の用かしら?
「ミル……じゃなくて、ルルよ。」
危なかったわ。正体がばれたら大変だもの。
「ルル、僕らとサッカーしない?どうしても1人足りないんだ。」
サッカー?みんなでボールを蹴る遊びだったかしら。
まあ、ヒマだし遊んでやってもいいわ。
「いいわよ。」
「ほんと!ありがとう、ルルちゃん。」
そういえば、同年代の子と遊ぶなんて初めてだわ。
さっきの男の子が公園まで案内してくれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ルル、シュートだ。思いっきり蹴ってやれ!」
「ええ。」
あのゴールとやらにボールを蹴ればいいのね。
よしっ。
思いっきりボールを蹴る。
入ったわ!これで……いいのかしら。
「やったー!すごいよルル。僕たちの勝ちだ、ルルのおかげだよ。」
「ありがとう。」
「すげーな、ルル。」
みんなが口々に言う。
こんなに楽しいの、うまれてはじめてだわ。
ママやリールは「はしたない。」って言うけど、みんなで遊ぶのもいいものね。
「もう1試合しようぜっ。」
こんな感じで、あっという間に夕方になってしまった。
「ミル!」
名前を呼ばれてとっさに声がした方を向く。
ん?なんであたしの名前を知っているの?
あたしの視界に入ってきたのは……
ブルーのドレスに、金色の髪。
「ママッ!」
「女王様」
みんなとあたしの声が重なる。
「どうしてこんな所にいるのです!」
「だって……」
「ルルって、ミル様だったのか!」
男の子があたしの声をさえぎった。
あたしは曖昧にうなずく。
「あの、だましててごめんなさい。」
みんなに頭を下げる。
「いえいえ。私たちこそ無礼なことを……。」
「おれ達、何も知らなくて。」
「申し訳ありません。」
私の正体を知ったみんなは、さっきまでのみんなじゃなかった。
もう、みんなとは遊べないのかな。
「みなさん、うちのミルがご迷惑をおかけしました。」
ママが謝る。
「さあ、ミル。帰りますよ。」
わたしはほうきを出してまたがると、みんなに手を振った。
「ばいばい。」
「さようなら。」
みんなは深々と頭を下げる。
わたしは「ばいばい」って手を振ってもらいたかった。
敬ってほしいなんて思ってない。
なのに……。
王族なんていやだ。
お家がせまくても、メイドがいなくてもいいから、普通の住民になりたい。
友達がほしい。
わたしのほうきはお城へ向かう。
運命ってやつかな。
なんて残酷なのだろう。
ママはみんなと話したいっていうから置いてきちゃった。
◇◆◇◆◇◆◇
お城ではリールが出迎えてくれた。
ここがあたしにの与えられた唯一世界なんだ。
ここから出ることは許されない。
◇◆◇◆◇◆◇
誰かの声で目が覚めた。
「ルル、サッカーしようぜ。」
ずっと聞きたかった声。
幻聴かな。
あたし、頭までおかしくなっちゃったの?
「ルルちゃーん。」
現実なのかしら?
ゆっくりと窓を開ける。
そこは、いつもとは違う世界だった。
『みんながいる。』
「女王になるために必要なもの。それは教養と友達よ。」
後ろでママの声がした。
「ママ……。」
「さあ、みんなが待っていますよ。」
あたしはうなずいて外へ出た。
「ミル様はお姫様だけど、ルルは僕らの友達だから。」
わたしの世界は2つある。
1つはプリンセス・ミルとしての世界。
そしてもう1つは1人の住人・ルルとしての世界。
わたしの1番好きな言葉は
『ルル、サッカーしようぜっ』と『友達』。
空には大きな虹がかかっている。
読んでいただきありがとうございました。