第6話 ゲーム大会
「――あ、きた」
「雪代さん、こんばんは」
俺はもう『ユーバーミーツです! 商品お届けにきました!』なんてことは言わなかった。
仕事として来てはいるものの、このやり取りも三回目。
雪代さんが普通に接してくるものだから、どうにも仕事モードになれない。
放課後、頭の痛みはそのあとすぐ引いたので、いつも通りにバイトしていた。
そうして空が暗くなると、雪代さんからの指名依頼が入り、商品を届けに来た。
「頭は、どう?」
「大丈夫。ごめんね、途中で寝ちゃって」
「ううん。気持ちよさそうに寝てた」
雪代さんに寝顔を見られるなんて変な気持ちだ。
どんな顔をして見られていたのだろう。
「今日はピザか……カロリー半端なさそうだね」
「うん。半端ないと思う」
抑える気はさらさらなさそうだ。
それにしても前から思っていたけど、栄養は偏っていないのだろうか。
いや、絶対に偏っている。
今はまだ若いから大丈夫だろうけど、食は体の資本だ。
絶対に影響が出てくる時がある。
痩せているように見えて、中はボロボロってことだってあり得る。
「じゃ、入って」
「お、お邪魔します……」
流れるように俺は雪代さんに部屋へと案内された。
もう二回目だ。慣れる……わけがない……!!
しかし、そんな緊張も、すぐにどこかへと行ってしまう。
「昨日掃除したばかりだと思うんだけど……」
「えへへ」
「恥ずかしがるところじゃないよ?」
「一度見られたから、いいかなって」
通されたリビングには、昨日の夜綺麗に掃除したと思われた、衣服や食べ物のゴミが大量に散らばっていた。
一日でどうやってここまで汚くできるのか、俺は目を疑った。
「ピザ食べながら、ゲームしよ?」
「掃除です」
「ピザは? ゲームは?」
「掃除してから、だね」
「ピザ……ゲームぅ……」
「そんな顔しても……ダメっ!」
天然で可愛いのに、ちょっとあざとい表情をされると、心がすぐに持っていかれる。
それに、ゴミが散らばったまま食事やゲームなんてできるわけない。
絶対に気になるし、落ち着かない。
ということで、俺はゴミ掃除をはじめた。
もちろん雪代さんは見ているだけだ。
ソファからじっと、俺が掃除する様子を見ている。
「雪代さんも手伝わない?」
「ゲームの準備する」
「そ、そうか……」
俺がそう言った途端、雪代さんはぐだっとしているスタイルを解き、テレビ下に格納してあったゲーム機を取り出した。
そうしてゴミ掃除を終えると、一緒にソファに座ってピザを食べながらゲームをすることになったのだが……
「相沢、よわすぎ」
「雪代さんが強すぎるんだよ……」
やっていたのは最新型ゲーム機の某有名カートゲーム。
雪代さんはどのコースも熟知しているのか、ショートカットを使いまくり、ダントツ一位。
ただ、ショートカットを使わずとも俺は勝てなかったので、そもそもやりこみ度が違う。
このゲームをはじめてプレイした俺には、勝てるわけもなかった。
「よおっしゃあああ!」
しかし、奇跡的に一度だけ勝ててしまったのだ。
本当に奇跡だ。
「……早く次」
雪代さんが少し不機嫌になった気がする。
すぐ次のレースに望むと、圧倒的差をつけられて負けてしまった。
「よっし」
雪代さんが小さな声で喜び、ガッツポーズをしていた。
「…………もしかして、さっき負けたの、悔しかった?」
「全然……」
少しツンとしている雪代さんも可愛い……。
「やっぱり悔しかったんだね。俺、初心者だからなあ、やっぱり負けたら悔しいよね」
「相沢……いじわる……」
「初心者に手加減しないで、いじわるされてたのは俺だよ……?」
雪代さんは意外と負けず嫌いなのかもしれない。
普段感情を見せない雪代さんがこうして感情を表に出してくれるのが嬉しかった。
「久しぶりに人とゲームした」
「そうなの? 友達いるって言ってたじゃん」
「身の回りのことやったてら、時間なくなる。ゲームはたまーにだけ」
確かに二週間分の掃除をしてたら、それだけで時間はなくなるか。
家政婦や家事代行は使わないのだろうか、お金があるなら使ってもいい気がする。
「そうか……その友達って料理とかは?」
「ん……しないよ」
「てことはやっぱりずっと今みたいな食生活をしてきたってわけか……」
「そうだね。でも美味しい」
俺が気にしてるのは美味しさじゃなくて栄養なんだが……。
今の雪代さんには理解できないかもしれない。
キッチンの方へと視線を送る。
この家はさすがは高級といったところで、アイランドキッチンというスタイルのキッチン。
壁際にキッチンがあるのではなく島のように独立している。
水道やコンロがあり、それでいて広い。
故に俺の腕が唸るキッチンでもあるのだ。
「――明日だけど、仕事あるから、頼めない……」
ふと、話題を切り替えた雪代さん。
その表情はどこか寂しげだ。
「そっか。そういえば、モデルだったね」
同級生女子には大人気のモデルだ。
こうして家に上がり込んで仲良くなった気がしているが、普通なら俺のような相手とつるむような人ではないんだ。
「さみしい?」
「さみしくないよ」
「さみしいって言ってみて」
「さみしくない」
「相沢って、素直じゃないね」
「俺は雪代さんが素直で困るよ……」
それはもう雪代さんがさみしいと言っているようなものだ。
昨日といい、今日といい、雪代さんはプライベートでは、少し甘えん坊で寂しがりやなのだろうか。
少し唇を尖らせる雪代さんの顔。
ただ、それだけでも可愛いと思えた。




