第4話 奇妙な関係
雪代さんの顔は真っ赤に染まっていた。
……よほど見られるのが恥ずかしかったのだろう。
けど、どう考えても今の薄着のほうが恥ずかしいと思う……。
彼女の恥ずかしがる基準がよくわからない。
「こ、これはね……明日まとめて片付けるつもりだったの。だから一箇所に集めてただけで……」
「どうみても適当に隠したって感じだけど」
「あいぃぃぃっ」
小動物みたいにあたふたする雪代さん。
学校でのクールな姿からは想像できない仕草に、不覚にも可愛いと思ってしまった。
だけど、この量はさすがに見逃せない。
一週間どころか、下手すりゃ二週間分は溜め込んでるんじゃないか?
よく今までこれで生活してこられたな……。
そして俺の中で、綺麗好きの血が燃え上がる。
一人暮らしをはじめてから、掃除が楽しくてしょうがないのだ。
「雪代さん……掃除、させてください」
「へ?」
「いや、むしろ掃除したい」
「あう……」
「掃除しますね!?」
「あ、あいええええええっ」
わけのわからない返事が返ってきたが、まあ肯定と受け取っておこう。
俺は牛丼を一旦放り出し、目の前のゴミ山に挑んだ。
――そして一番最初に掴んだものが、最悪だった。
「パ、パ…………パンツぅぅぅっ!?」
紫色のTバックが、俺の手の中にぶら下がっていた。
衣服だとわかってはいたが、まさか下着まであるとは……。
しかも、こんな紐だけのようなエロい下着……っ!
「く、臭くないといいな……」
「そこじゃないだろぉぉぉぉっ!?」
気にするべきは俺がパンツを持っていることだろう。
本当に雪代さんはどこかズレている。
「と、とにかく! 下着だけは先に回収してもらえる?」
「今は牛丼食べる時間だから、ムリぃ……」
「…………」
結局、俺は大きなため息を吐いてテーブルに戻り、雪代さんと一緒に牛丼を食べ進めるのだった。
「――ふう、なんとか片付いた……」
額の汗をぬぐう俺の背後で、ぱちぱちと控えめな拍手。
振り向けば、雪代さんが嬉しそうに微笑んでいた。
四十五リットルのゴミ袋が七つ。食べ物のゴミだけでこれだ。
さらに洗濯機はフル稼働中。着る服が減って困っていたらしい。
「もう九時か……俺、そろそろ帰るね」
そう言った瞬間、思いがけない言葉が返ってきた。
「……もう、帰るの?」
「えっ……」
どこか寂しそうな表情をした雪代さん。
不意を突かれ、心臓が跳ねた。
「だって……洗濯物、取り出せないし」
「取り出せないって、どういう意味だよ」
「い、いつもは……色々と、ともだちが、やってくれてて……」
「友達はどれくらいのスパンでくるんだ?」
「二週間に一回くらい……」
なんだそれ。
つまりその間、この部屋はずっとゴミ屋敷だったってことか。
自分で洗濯機も回せないとか、ないよな……。
「……とりあえず、終わるまでは待つ……」
「やった」
ぱっと顔を輝かせる雪代さん。
……ずるい。本当に、何をしても可愛い。
「ねえ、相沢……明日もバイトしてる?」
「うん。ほとんど毎日してるよ」
「じゃあ……明日も指名する」
「っ……お、俺は家政婦じゃないからな!?」
否定の言葉とは裏腹に、胸は高鳴っていた。
学年一の美少女に頼られている。しかも、誰にも知られていない二人だけの秘密。
俺は人に頼られるのは好きだし、人の面倒を見ることも嫌いではない。
でも、一方的に使われるのは、フェアではないと思っている。
「じゃあ、遊んだり……一緒にゲームとか、する? ……あ、ご飯一個分なら、今日みたいにあげてもいい」
「ぐ……」
その誘い、反則だろ……。
雪代さんとゲーム? 学校の誰かに言ったら発狂されるに違いない。
「……あと、勉強なら教えられるかも」
「え、勉強? 中学では何位くらいだったんだ?」
「三百人中、五位とか」
「マジかよ!?」
完全に意外だった。
雪代さん、頭まで良かったのか。
「……どう、かな?」
瞳をうるうるさせ、不安げにこちらを見上げる雪代さんに、俺は観念して頷いた。
将来の選択肢を増やすためには勉強は必要だし、なにより――彼女と一緒にいられる理由にもなる。
「……わかった」
「やった……!」
嬉しそうにぴょんとぴょん跳ねる雪代さん。
可愛い雪兎かよ……。
「ライン……交換しよ」
玄関前で、雪代さんがスマホを差し出した。
「ほら……急な用事とか、あるかもしれないし……」
「わ、わかった……」
俺もスマホを取り出し、雪代さんと連絡先を交換した。
あの、雪代さんとだ……。恐らく学校のどの男子もまだ知らない彼女の連絡先だ。
彼女のラインのアイコンは、可愛らしい雪だるまだった。名字にも入っている雪が好きなのだろうか。
「じゃあ、また……明日」
「うん。また明日」
玄関で見送ってくれる雪代さんに手を振り、俺は夜風を受けながら帰路についた。
こうしてはじまった、俺と雪代さんの奇妙な関係。
――デリバリーを口実に、彼女の家に通う日々がはじまる。
彼女は俺に素をさらけ出し、俺は彼女に振り回される。
きっとこれは、ただのアルバイト以上の何かに変わっていく。
雪代陽依という存在が、俺の運命を大きく変えていく予感がしていた。
雪代さんかわいいと思った方はぜひ【★★★★★評価】【お気に入り登録】をお願いします!!




