第3話 招かれる家
翌日の学校。
いつも通りに登校した俺は、教室に到着すると、一人の女子生徒に目を奪われた。
雪代陽依――クラスでも学年でも一番の美少女として持て囃されている存在だ。
「ねえ、雪代さん! 『SUNOWN』の新作見たよ! あのワンピ可愛いよねー!」
「私も思った! でも、雪代さんみたいに身長高くて細くないといい感じに見えないんだろうなー」
こうして雪代さんが囲まれるのは、この教室ではよく見られる光景だ。
だが、女子高生の星である雪代さんは、女子に囲まれているお陰で、お近づきになりたい男子はなかなか喋りかけられない。
今こうしている間も、クラスの男子はやきもきしながら、雪代さんを見つめていた。
俺は、窓際の自分の席に座り、カバンから教科書を机の中にしまった。
そうして一段落した時だった。
「――――っ」
ちらりと雪代さんがこちらに視線を送った気がしたのだ。
それだけで俺はドキリと胸が跳ね、心臓の鼓動が早くなったのを感じた。
思い出されるのは、昨日の雪代さんの姿。
汗だくになりながら、下着のようなトレーニングウェアで現れた彼女は、健全な男子高校生にとっては目に毒だった。
忘れようとしても忘れられない、オフの雪代さんだ。
制服姿も可愛いが、家での雪代さんもよかった。
「――なあ、今雪代さんこっち見なかったか?」
「そ、そうかな……?」
「雪代さんって、ああして人に囲まれはするけど、人には興味ないって感じだろ? だから視線を動かすのは珍しいなって」
「よく見てるな……」
そう言ったのは、俺の前の席に座っていたクラスメイトの青島蓮次。
茶髪の髪をミディアムにしたイケメンだ。
席が近いこともあって、自然と仲良くなった。
俺の男の友達は、蓮次がはじめてだった。
毎日のように家の手伝いをしていたことから、付き合いが悪いと言われ、昔から友達ができなかった。
そんな付き合いが悪い俺でも、入学当初からめげずに話しかけてくれたのが蓮次だった。
「ま、俺の勘違いか」
「そうかもね」
蓮次は勘が良い。
いずれ俺がバイトで雪代さんの家に行ったこともバレるかもしれない。
◇◇◇
放課後、今日も俺は『ユーバーミーツ』のバイトに励んでいた。
時刻は既に七時を周り、辺りは暗くなっている。
今日はそろそろやめよう——そう思った時だった。
アプリに通知があり、確認してみると、なんと昨日と同じように二千円近くの報酬額が表示されていたのだ。
「え――――」
しかし、俺の驚きはそこで止まらなかった。
「指名……依頼?」
実はこの『ユーバーミーツ』。他のデリバリーサービスにはない機能があるのだ。
客が稼働している配達員を指名できる制度があり、指名されると数百円ではあるが、インセンティブが入る。
客側も信頼できる配達員を選べてウィンウィンというわけだ。
はじめて指名依頼が入ったことで、俺は心が躍った。
そこで配達先の住所を確認してみると――
「ま、まさか…………」
表示されていたのは、昨日配達したばかりの見覚えのある住所で————。
今日の注文商品は、牛丼屋さんだった。
インセンティブの分もあるので、昨日よりは注文金額は少ないようだがそれでも大量の注文だった。
俺は牛丼屋さんから商品を受取ると、それをバッグに詰めて配達先へと向かった。
ピンポーンとインターホンを鳴らす。
「はーい」
ドアの向こうから聞き覚えのある声が聞こえた。
そうして顔を見せたのは昨日と同じ雪代さんの姿だったのだが――
「んんんっ!?」
肩が全てでたキャミソールにすらっとした長い脚が見えるショートパンツ。
濡れた髪に火照った顔。首にはバスタオルを巻いており、ふわっと香るのはシャンプーの匂い。
今まさにお風呂から上がったような姿で雪代さんが現れたのだ。
昨日もそうだったが、雪代さん、無防備過ぎる……!
「ユ、ユーバーミーツです! 商品をお届けにきました!」
「相沢……こんばんは」
「ここっ、こんばんは……」
俺はできるだけバイトとしての自分で接しているのだが、雪代さんは同級生として接してくる。
俺はどちらで接すれば良いのかわからなくて、中途半端な対応になってしまう。
でも、これだけは言わないといけない。
「指名依頼、ありがとうございますっ!」
俺は頭を下げ、雪代さんに感謝を告げた。
「うん……じゃあ、中に入って」
「………………へ?」
じゃあ、とは?
じゃあ、入ってとは?
意味のわからない言葉が耳に入り、俺は混乱した。
「あれ、バイトまだやるの?」
「いや……もう遅いから今日はこれで終わりにしようと思ってるけど」
「じゃあ、大丈夫だね……早くあがって」
「????????????」
――あがってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
数分後、俺は雪代さんの家のリビング。
L字ソファの前に設置されてあった、大きめのローテーブルの前に座っていた。
テーブルの上には、俺が届けた十個近い牛丼と豚汁やサラダなどのサイドメニュー。
今俺は、雪代さんが髪を乾かすというので、正座して待っている状態だ。
リビングを見渡せば、昨日とは打って変わって、服や食べ物のゴミなどが落ちていないようだった。
あれはやっぱり俺の勘違いだったのだろうか。
「おまたせ……じゃあ、食べよっか」
「食べよっか……とは?」
「一個だけ、食べていい。他はダメ」
「えっとぉ…………」
「二個食べたいの? 相沢って、案外食い意地があるんだね」
「雪代さんには言われたくないけどぉぉぉ!?」
「…………やっぱりバレてた」
雪代さんは袋から牛丼を取り出しながら、少しだけ頬を染めていた。
するとなぜ俺を家に入れたのかを説明してくれた。
「わたし、これでもモデルとかやってて……学校でも色々仮面被ってて……」
え、そうなの。
あれってやっぱり本来の雪代さんじゃないの?
「だから、こんなに大食いだってこと、あんまりバレたくないというか……」
そう言いながら、割り箸を手に取り、牛丼を食べはじめた雪代さん。
「んぅ〜〜〜〜♡ おいし……じゃなくて。だから、相沢には、黙っていてほしい」
コロコロと表情が変わった。
本当に食べることが好きみたいだ。
そういえば学校では雪代さんが昼食を食べているところ、見たことがないなぁ。
どこで食べてるんだろう。
「だから呼んだ。ほら、指名ってやつ、注文した商品を家で一緒に食べてくれるんでしょ?」
「チガウヨ!?」
「ほぇっ!?」
この子、実はポンコツか?
説明くらいちゃんと読んでほしい。
指名依頼は届ける配達員を選ぶことができるだけ。
それ以上でも以下でもない。
「だから、一緒にご飯を食べるサービスなんてないし、家に上がることだって普通はないよ……」
「そ、そうだったんだ……でも、相沢にこのことを黙っていてほしいのは本当だから……どちらにせよ、上がってもらう必要があった……」
もう一つ食べ終えた。
雪代さんはフードファイターかな?
「それはもちろんいいよ。というか、俺はそういう人の秘密を勝手に人に話したりしないよ」
「そう……なら、安心。…………食べないの? それ相沢の分だよ。食べないなら私、もらっちゃう……」
「……せっかくだからいただこうかな」
雪代さんい言われるまま、俺は割り箸を手に取り、牛丼を口に頬張った。
できたての牛丼だ。保温性のあるデリバリーバッグだからか、移動に時間がかかっても結構温かい。
「おいしい……」
「ふふ」
また笑った……!
俺は今、天使を見ている。
この状況、本当に意味がわからないけど、前世の俺はかなり徳を積んだらしい。
「あ、水とかいる? 水道水しかないけど……」
「いいの? じゃあもらおうかな」
牛丼だけでは口が乾いてしまう。
水で喉を潤したい。
「棚にあるコップ使ってもいい?」
「うん――――って、だめぇっ!?」
「えっ!?」
俺は立ち上がり、コップを取りに行こうとキッチンの裏へと歩いた。
しかしなぜか雪代さんは俺を止めようと立ち上がり――
「…………あ」
「ええと、ええと……………」
そこには、昨日見たような、衣服や食べ物のゴミがぐちゃぐちゃになって置いてあったのだった。
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