第14話 陽依の気持ち
――近頃、自分がおかしい。
そう感じるようになったのは、相沢が私の家に来るようになってから。
来るようになった、というより……私が呼んだ、と言うのが正しいのかもしれない。
私の友達は彩女だけだった。
ふわふわしてる私の面倒をずっと見てくれた、姉妹みたいな存在。
モデルの仕事をはじめるようになってから一人暮らしをさせられて、迎えに来ないママの代わりに気にかけてくれた、私の大切な子。
中学の頃からずっと一緒で、高校でも同じになった。けれど彩女はケーキ屋での修行に忙しくて、いつでも時間があるわけじゃなかった。
だから、彩女がいない時間はとても寂しくて。
でも最近、その寂しさを埋めるようにして現れたのが――相沢だった。
モデルの仕事に迷惑をかけないように、学校では隠れて食事をしていた私。
けれど、ユーバーミーツで偶然来た相沢に、散らかった部屋の姿を見られてしまい……気づけば翌日、強引に家へ連れ込んでいた。
本来なら絶対にありえないこと。
それでも、相沢なら大丈夫だって、はじめて会った時から不思議とそんな安心感があった。
相沢はお節介だった。
けれどそれは嫌な意味じゃなくて、むしろ真逆。綺麗好きみたいで、私の散らかった部屋を手際よく片付けてくれた。
すっきりした部屋は少し落ち着かない。でも、不思議と相沢が一緒にいるだけで心が安らいだ。
――相沢が保健室に運ばれた。
バスケットボールが頭に当たったらしい。
男の人をこんなに心配したのははじめてだった。
夜、バイトができなくて家に来ないんじゃないかと不安だったけど、それ以上に体のことが心配でたまらなかった。
その相沢は、私と話している最中に力尽きるように眠ってしまった。
「…………」
そっと相沢の手をとる。
大きくて、少しゴツゴツしているのに、指は長くて細くて、不思議なほど繊細な手だった。
ただ、ところどころ硬いタコがあった。
あとで料理をしていたと聞いて納得した。あれは包丁ダコだったのだ。
――ママに怒られた日。
胸が張り裂けそうに悲しくて、泣きたくて。
本当なら彩女を呼ぶはずだったのに、気づけば相沢に連絡をしていた。
勢いのまま抱きついて、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになって……それでも相沢は黙って受け止めてくれた。
私の話を聞いて、代わりに話してくれたのは相沢自身のこと。
パパから逃げてきた、と。私にはいない存在の話だったけど、親との距離を抱えているのは同じで――だから、少しだけ心が近づいた気がした。
私のわがまま。
痩せたい、でも食べたい。そのどうしようもない矛盾。
普通なら「食べるのをやめろ」と言われるはずなのに、相沢は違った。
「カロリー低めで量の多いご飯、作ろうか?」なんて、言ってくれた。
そんなの、嬉しいに決まってる。
胸の奥が熱くなって、止まらない。
もっと相沢と一緒にいたい。もっと相沢のことを知りたい。
自然に、そう思うようになっていた。
だから、お願い。
彩女には悪いけど、私は相沢を応援する。相沢に勝ってほしい。
彩女も本気で挑んでくるだろう。忖度なんてできないけど――それでも相沢の料理を食べたい。
そんな気持ちを抱えながら、私は桜の練り切りを口いっぱいに頬張り、その甘さを噛みしめた。




