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フードデリバリーのバイトをはじめたらダウナー系ポンコツ美少女の家にお呼ばれするようになった件  作者: 藤白ぺるか


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第12話 好きなスイーツ

「なあ、蓮次の妹って、どんなスイーツが好きなんだ?」


 週明けの月曜日。

 スイーツ対決が決まってからの俺は、早くも頭を抱えていた。

 残された時間は、今日を含めてもたった四日。どんなスイーツで勝負に挑むのか、早めに決めなければならない。


 そこで俺は、蓮次に相談してみることにした。

 蓮次にはまだ小学生の妹がいる。子どもの好みは正直で、飾らない。そういう意見の方が、案外参考になる気がしたのだ。

 本当なら雪代さんに聞くのが一番だろう。だが、彼女に聞いてしまえば、対決そのものが成立しなくなる気がしているので、それはしないことに決めていた。


「うちの妹は可愛けりゃなんでも好きだからなー。まだ八歳だし、味よりも見た目でテンション上がる年齢だぞ。参考になるか?」

「いや、それ、かなり参考になると思う」


 子どもっぽさ。

 それは雪代さんのプライベートな一面を思い出させた。彼女にも、意外とそういう可愛げがある。だから蓮次の妹の嗜好は、どこかリンクする気がしているのだ。


「つーか、急にどうした。なんでそんなこと聞く?」

「あー……まあ、家でもちょっと料理してみようかなって。何もしないと腕が鈍るし」

「へぇ? 本当に?」

「ほ、本当だって! なんでそんな疑いの目で見るんだよ!」


 蓮次は昔から妙に勘が鋭い。

 俺がいきなりスイーツに手を出そうとしていることを怪しむのは当然だろう。


 結局、俺はその日一日中、ずっとどんなスイーツを作るかということばかり考えていた。


「でも、見た目重視か……ならやっぱり、和菓子の定番でアレしかないよなぁ」


 俺はひとまず方向性を決めた。

 ただ、まだ大枠だけ。そこからどんな形に仕上げるかは未定だ。だが、使う材料は頭に浮かんでいたので、俺は昼休みに紫藤さんにラインして、必要なものを揃えてもらうことにした。



 ◇◇◇



「――ねえ、陽依。どっちが勝つと思う? もちろん私よね?」


 昼休み。

 校舎の片隅にある小さな部屋で昼食をとっていた。


 ここは『スイーツ研究部』の部室。

 部員は二人だけ。だが奇跡的に与えられたこの部室は、ほとんどの生徒がその存在すら知らず、それでいて他の誰もやってこない場所だった。


 彩女の作ったスイーツを試食して、紅茶やコーヒーを飲む。ただそれだけの活動。

 けれど彩女にとっては、自分のケーキ屋の家業に繋がる大切な実験場であり、陽依という一人の消費者の舌を借りられる貴重な時間でもあった。


「うーん……わはらはい(わからない)


 陽依は、口いっぱいに菓子パンを詰め込みながら答える。

 机の上には、買ってきた袋入りの菓子パンがいくつも並び、横にはコーヒー牛乳の紙パック。

 そのすべてを用意したのは彩女だ。陽依の大食いのイメージが周囲にバレないよう、ずっと影で支え続けてきたのだ。


「そこは嘘でも私って言いなさいよね! このジャンガリアンハムスター!」

「もぐもぐ……」


 頬をパンパンに膨らませた陽依は、まさに小動物そのもの。

 彩女はため息をひとつ吐いた。


「……あいつ、どんな和菓子作るんだろう」

ひひはふの(気になるの)?」

「まあね。同年代でちゃんと料理やってる子なんて珍しいから。しかも家業が関係してるなら、レベルが違うでしょ」

「ん……ごくん。そうなのかな。調べてみたら?」

「調べる? 何を?」

「ちょっと前に聞いた。『火具羅かぐら』ってお店」


 陽依はパンを飲み込んでから、あっさりと悠希の実家の店の名前を口にした。

 彩女はすぐにスマホを操作し、検索結果を見て固まる。


「……創業七十年!? ちょ、なにそれ、私の家なんてまだ十年そこらなのに!」

「へぇ。そんなにすごいの?」

「すごいに決まってるでしょ! 時代を越えて生き残るってことは、味と信頼がある証拠よ!」


 彩女は頭を抱えた。

 ライバルの格を、数字ひとつで突きつけられた気分だった。

 彩女はそのあとも、どんな和菓子を提供しているのか、メニューを調べていった。


「じゃあ、相沢の料理って……やっぱり美味しいのかな……じゅるり」


 陽依は単純に食欲で結論を出す。

 その姿に、彩女は複雑な感情を覚えつつも、目を細める。


「ぐぐ……負けてられないわね。気合を入れ直さないと……あ、アイツからメッセージ」


 スマホが鳴り、画面に悠希の名前が表示される。

 材料のリストが送られてきていた。


「ふーん。やっぱり洋菓子とは全然違うわね……どんなものを作るつもりなんだか」

「…………私には、メッセージこない……」

「当たり前でしょ。陽依に材料の話してどうすんのよ」

「ぶぅぅ……私も相沢とメッセージしたい」


 彩女は思わず陽依の顔を凝視した。

 陽依は口をとがらせながら、じーっとスマホの画面を覗き込んでいる。


「あ、私からすればいいのか……。今まで用事以外でメッセージしたことなかったから……」

「ひ、陽依!? なんでわざわざ……何を送るつもりなのよ?」

「んー……なんだろ。……さみしい、とか?」

「あああああああああああああっ!」


 彩女は思わず叫び声をあげた。

 なぜなら相手は陽依とほんの少ししか関わっていないような相手だ。

 なのに陽依は露骨に悠希を求めている。


 だが、陽依自身、どうしてそんな行動に出ているのか、わかってすらいない。

 彩女は、誰に言われたわけでもないが、昔から、陽依のことが心配なのだ。


 自分とは違って、孤独な陽依。

 ずっと見守ることはできないけど、少しくらいなら寄り添うことはやってきた。


 だから、彩女はぎゅっとスマホを握りしめ、心の奥で静かに決意を固める。


「……やっぱり、私がアイツを見極めてやらなきゃ」


 そのつぶやきは、陽依には聞こえないほど小さな声だった。





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