第7話 黒葉の過去
黒葉は約2年前、高校に入学したての時のことを和夜に話し始める。
高校1年の黒葉は朝の教室でドキドキしながら少年漫画を読んでいた。今とは外見が違い、あまりお洒落をしていない恰好だった。そこへ話し掛ける男がいた。
「よぉ、結構可愛いじゃねぇか。俺も少年漫画は好きだぜ?」
人相も血色も悪い銀髪オールバックの男だ。通称テント。コイツが黒葉を苦しめる元凶になる男だ。
テントは黒葉に一目惚れをしたため毎日、絡んで来た。テントは有名な不良だったので怖かった。離れたかったが離れられなかった。
「なぁ黒葉ちゃん。そろそろ付き合ってくんね?」
気持ち悪い絡みだ。黒葉は苦笑いでやんわりと断る。嫌われているのに何てしつこい男だろう。ボディタッチも多く腰に手を回されることもある。だが誰も助ける者は居なかった。校舎裏で隠れながら黒葉はうずくまって泣いていた。
「男に追われて泣く必要なんてないのよ」
話し掛ける者が居た。黒葉は涙も鼻水も垂らしながら上を向いた。そこに居たのは3年の四葉先輩だった。この方はモデルのような高身長、長いサラサラのブルーブラックヘアを掻き上げる姿に色気があってモテると有名な先輩だった。
「泣いたら可愛い顔が台無しよ。まぁ、泣いた顔も可愛いけど」
四葉先輩は黒葉の隣に座り、涙と鼻水を拭いてあげた。
「アドバイスよ。貴方せっかく可愛い顔で生まれたんだから、ちゃんとそれを活かしなさい」
黒葉はしゃくり上げながらも話を聞いていた。
「せっかく可愛い顔で生まれたんだから、それを活かして強い男に助けを求めなさい。そうすれば強い男はきっと貴方を助けてくれるわ。今まで1人でどうにかしようとして、ここまで本当に頑張ったわね。1人で解決しようとするもの大事だけど強い男の人に助けを求めても良いのよ」
黒葉と四葉先輩は見つめ合っていた。黒葉はやっと泣き止み声を発した。
「私に出来るかな・・・」
「ええ、出来るわよ。少なくとも貴方を救いたいと思っている人。1人は居るわ」
「えっ」
四葉先輩が向いた方向に黒葉も目を向けると1人の男が立っていた。
「ガンバくん?」
ガンバというあだ名の黒葉のクラスメイトだった。正直ここに居る女性2人はガンバくんの名前を覚えていない。頑張れ、ガンバくん。
「黒葉がテントと一緒に居るのは両思いからだっていう噂があったけど、黒葉の表情がどうしてもテントのことを本当に嫌がっているように見える時があって。今、思えば黒葉の相談に乗れば良かったって後悔してる。黒葉が1人で追いつめられることになってごめん」
ガンバは精一杯、謝った。それに黒葉は答えた。
「謝らないで。そう言ってくれてありがとう。何て言えば良いか分からなくて私も周りに相談が出来なかったし」
次に四葉先輩が口を開いた。
「彼は貴方が悩んでるかもしれないとずっと前から気になっててね。それでも直接、聞いてしまっても良いのか迷ってたのよ。でも今、助けるの一択ね」
「はい。黒葉を絶対に守るよ。俺、黒葉にテントを近づけないようにする」
黒葉を真剣な眼差しで見つめながらガンバは言った。
宣言通りにガンバはテントへ黒葉が嫌がっているから近づかないように忠告をした。するとテントはイラつきガンバを殴った。ガンバは決して強くはない。だが、ガンバが勝利した。気合でKOしたのだ。その姿はテントに負けない位ボロボロの姿だった。
「・・・ボロボロだ・・・でも・・・気合で勝って、今度は守れて良かった・・・」
勝ったテントは体の力が抜けながらも呟いた。黒葉はもうテントから守って貰ったことに安心しつつも、泣きながらも戦ってくれたガンバにとても感謝をした。
敗れたテントはガンバと黒葉を恐ろしい形相で睨み
「このことを俺は忘れねぇ、忘れねぇからな。お前等が忘れても俺は覚えているからな」
と言い残し立ち去った。そこから学校へ顔を出すことはなくなった。有名な不良がモブっぽい男に負けたのだ。プライドが許さなかったのだろう。
テントを倒したとはいえ油断は出来なかった。テントが復讐に来るかもしれない。また他の男に絡まれるかもしれない。様々なリスクがあった。そのため黒葉は四葉先輩のありがたいお言葉である「せっかく可愛い顔で生まれたんだから、それを活かして強い男に助けを求めなさい」を胸に刻み行動した。黒葉は学校内は勿論だが他校にも強い高校生が居ると聞きつけると誘惑をした。可愛くぶりっこをし、目を潤ませ
「守ってほしい」
と言った。ガンバは自分1人の力で黒葉を守れないことが悔しかったが黒葉が安全に生活することが1番、大事なため黒葉に付いて行った。