第16話 若い人材
これから怪化薬打倒委員会を背負う伸郎、和夜、騎士の3人は不死長老の家に着き、カードをかざすと怪化薬打倒委員会の建物に入って行く。和夜は1番、緊張していた。というより和夜だけ緊張していた。なぜなら怪化薬打倒委員会の幹部に挨拶をするからだ。人見知りには心臓バクバクである。不死長老はそれに配慮してなのか幹部の全体会議をする前に顔合わせとして軽い挨拶をする機会を設けてくれた。幹部の人数はかなり少ないがありがたい。予定では3人がそれぞれ幹部メンバーに会いに行くつもりだった。が、予定が狂い申し訳なさそうに不死長老が言った。
「和夜くん、すまんがリゼくんとキンバくんの所へ先に行ってあげてくれんかのぉ。和夜くん達ほど強くはないが戦闘力が十分にある子達で幹部として招待したいと思っておる。黒葉くんが勧誘してくれた男子中学生2人で、今日はその話のために呼んだんだが困ったことに肝心の黒葉くんはヒーロー部の活動が長引いていて直ぐには来れそうにない。2人が暇そうに待っているから挨拶ついでに行ってあげて欲しい」
「分かりました」
「お茶も一緒に持って行ってくれんかの」
「はい」
「和夜ちゃん、俺が持って行くから先に行って座ってなよ」
「えっ、悪いよ」
「良いの良いの」
「そうだね。せっかくだから騎士くんも行った方がいいのぉ」
和夜は緊張しながら2人の男子中学生が居る部屋へ歩いた。伸郎は不死長老に聞いた。
「2人が行くなら俺も行った方が良いんじゃないか?」
「そのつもりだったんだが強くんにこの時間に挨拶しに来る人がいると約束してしまっていての。伸郎くんだけでも先に会ってあげて欲しい。それにナンバー1、幹部リーダーにとても会いたがっておった」
「そうか。分かった」
伸郎は強という男の元へ向かった。
深呼吸をし、人という字を手に何回も書いて食べる真似をした和夜はドアをノックし開けた。
「失礼します」
と言うと2人の男子中学生の元へ恐る恐る近づく。リーゼント頭の男の方は足を組み斜めに行儀悪く座りながら怖い顔で和夜を見ていた。金髪の優しそうな雰囲気の男は少し驚いた顔で和夜を見ていた。リーゼント頭の方が口を開いた。
「誰だ?黒葉さんが来るんじゃないのかよ」
「あっ挨拶が遅くなりました。松石和夜です。幹部リーダー補佐役を務めさせて頂いてます。まぁ、なったばっかで活動はこれからですが・・・黒葉ちゃんはヒーロー部で少し遅れるそうで長老さんから2人に挨拶するように言われて伺いました」
緊張しているのがあからさまに出てしまい言い終わった後に和夜は少し後悔した。リーゼント頭がまた口を開いた。
「俺はリゼ。隣の方はキンバだ」
「キンバです。和夜先輩でしたか。宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」
和夜は軽く会釈をした。和夜は顔には出さないでいたが心の中で年上に敬語を使わない男の方に少しイラっとしていた。それと同時に怖そうな人で怯えていたがキンバの方は話がしやすそうで安心した。キンバは笑うと1本の金歯が光る。
「長老さんから聞いたよ。お2人さん、まだ中学生ですごいね。強いから黒葉ちゃんから勧誘されたって聞きました」
うっかり年下だからとタメ口を使ってしまったが良くないと思い急いで敬語に直しながら話す。これから幹部仲間として良好な関係になりたいと思っているので、世間話でもしようと緊張しながらも頑張る。しかし、相手は望んでいなかった。
「へっ、そうやって褒めて年下の男をたぶらかしてんのか?」
リゼが嘲笑いながら和夜へ言った。和夜はいきなりのことで何も言えなかった。というかびっくりし過ぎて思考停止した。
「こらっ、リゼ。そんなことを言っちゃ駄目だよ」
和夜は目だけを動かし、キンバの方を見た。
「確かにHPの写真は騎士さんとのツーショットだらけで同棲もしてて、年下の男を騙しているとか、騎士さんに戦わせて手柄を取ろうとしているとか悪い噂が多いけど本人に言っちゃ駄目だって」
知らなかったことを知ってしまった和夜。ポッカリ空いた心の穴がさらに広がった。
「俺は認めねぇ。対してトレーニングとかの努力もしてなさそうな、こんな弱そうな癖に騎士さんと委員会のナンバー2を争う強さ?そんな訳ないだろ。なんでコイツも同じナンバー2なんだよ。っていうか無敵の奥義が1つだけ出来るとか、そんなのどうせハッタリだろ。昔のアニメの話」
「それは俺も思うけど流石に本人にはまずいって」
キンバはフォローしているようで全然フォローになっていない。和夜は初対面の年下に生意気なことを言われてイラつくより先に傷ついていた。だが精一杯、苦笑いで否定をした。
「いや、そんなたぶらかしてるなんて、そんなつもりはないよ。というかしてないよ。奥義も本当だよ。確かにトレーニングとか皆みたいに努力はしてないけど、長老さんに奥義の力を認められて招待されたんだよ。ハッタリとかじゃないよ」
「どーだか。キンバも同じこと思ってんなら敬語とかする必要ないだろ」
「リゼったら・・・まぁ確かにそうだな。今更、思っていることは隠してもしょうがないし。一応、年上で委員会の中でも上の立場だから敬語は使うけど」
和夜はもう泣きそうだったが頑張って涙がこぼれない様にした。そんな険悪な雰囲気の時、ノック音が響きドアが開く。お茶を持った騎士が来たのだ。さっきまで態度の悪かった2人は真っすぐ立ち、気を付けの姿勢でハキハキとした声を出す。
「騎士さんですね!俺はリゼです!騎士さんのイケメンな所と強さ、格好良さにスゲー憧れてます!」
「俺はキンバです!リゼと同じで憧れてます!」
自分に対してありえないくらい生意気だったとは思えない程に礼儀正しい2人に驚き和夜は固まった。そんな和夜の様子を見た騎士は何か悪いことが起きたと察知した。
「和夜ちゃん、大丈夫?もしかして、この2人に何か言われた?」
そう言い男2人に騎士は軽く疑いの目を向ける。というか若干、睨んでいる。和夜は焦り言った。
「ああ、ええと、ちょっとね。何でも、何でもない!何でもないよ!緊張してるだけ!」
和夜は言ってやろうか迷ったが自分は成人していて相手は中学生。大人げない気がし止めた。その場の空気を悪くしない選択をした。そもそも本人の前でチクるのも怖い。
「騎士さん!そんな女は放っておいて、こっちに来て座って下さい!」
「和夜先輩の代わりにお茶まで持って来てくれたんですか?ありがとうございます!」
「何その言い方・・・」
騎士に睨まれた2人は少しビビる。和夜はどうしたら良いか分からないでいた。せっかく悪口を言われた被害者が守ってくれたのに命知らずなものだ。そこへ、またノック音がしドアが開く。やっと黒葉がやって来たのだ。
「遅れてごめんなさい!あら?和夜!」
そう言いハグをした。騎士は和夜の脇を掴み引き剥がす。2人に愛される和夜をリゼとキンバは怖い顔をして見ていた。
「なんだ騎士も居たのね。あっ、不死長老が和夜と騎士を呼んでたわ。私の代わりにリゼくんとキンバくんの相手をしてくれてありがとう」
「黒葉さん!忙しいのに俺達の所に来てくれてありがとうございます!」
「騎士さんがお茶を持って来てくれたんで一緒に座って飲みましょ!」
黒葉にも礼儀が正しいことに和夜は目を丸くして驚くが可愛い子なら別なのかと思うと悲しくなった。それでも涙は出さないようにした。
「黒葉ちゃん、ありがとうね。行って来るわ」
ぎこちないが頑張って笑顔で騎士と一緒に部屋を出た。黒葉は少し無理しているような表情に見える和夜が気になったがリゼとキンバに委員会の勧誘をしなければならないので仕事を続行した。
部屋を出た和夜と騎士は不死長老の元へ歩く。騎士が心配し話をする。和夜も2人きりだから良いだろうと思い、言われた嫌なことを話す。それを聞いた騎士はとても怒っていた。
「あの2人、和夜ちゃんに対して失礼過ぎる」
「ああ~まぁ、もしかして反抗期かな?騎士くんや黒葉ちゃんには普通だったし、私は成人してるし」
「だからって態度が悪過ぎる」
「一応、言うけども殴っちゃ駄目よ!?私は大丈夫だから!確かに傷ついたけどさ。それに私はこんなんだから、しょうがないっていうか。」
「そんなことない!・・・もし、またなんかあったら言ってね」
「うん、ありがとう。でも騎士くんは気にしなくて良いからね!」
和夜と騎士が男子中学生2人を相手にしている時に伸郎は強に挨拶をしていた。不死長老に案内された所は筋トレをしている男ばかりが集まったトレーニングルームだった。伸郎はその部屋へ入る。
「失礼します。幹部リーダーの松石伸郎です」
「わぁ!本物だ!」
「かっけぇ」
「尊敬してます!」
今まで筋トレに没頭していた男達が伸郎に気付くと急いで駆け寄り、尊敬の目を向ける。そこへ、1番大柄な男が歩いて来た。
「私は強と申します。宜しくお願いします」
「強くん、宜しくな。不死長老から今まで委員会を引っ張っていたって聞いたぜ。俺より30歳以上も若いのにすげぇな」
「いえ、そんな・・・」
強は30歳にもなっていない男だが伸郎がリーダーになる前に仮で幹部リーダーをしていた。その男は200cmを越える身長でムキムキのマッチョ。細身の伸郎は心の中で良いなぁ、と思っていた。学生時代、太りたいけど太れず柔道部の中で1人だけガリガリだったことがあるからだ。
「あの、会って早々、申し訳ないのですが手合わせして頂けないでしょうか?」
「おう!えーよ!」
「ありがとうございます。外に道場があるので是非そこで」
「分かった」
トレーニングルームに居た男全員、道場へ移動した。伸郎と強が向かい合い緊張した空気が走る。それをドキドキしながら他の男共は見物していた。
「宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」
お互い深いお辞儀をした後に手合わせは始まった。先に攻撃をしかけたのは強。パンチ、キックをしたり身動きが取れないように掴もうとしたりした。伸郎は余裕の表情で全てを交わした。強が手合わせを願った理由は伸郎が本当に幹部リーダーになるほどの強さなのかを知りたいからだ。実際に手合わせをして相応しいかを試そうとしたのだ。
「遠慮せずに伸郎さんも攻撃して下さい。手合わせじゃなくなってしまいます」
「そうだな」
伸郎は素早く強の背後に回る。それに気づいた強は急いで振り返るが伸郎の姿はなかった。すると、片腕を掴まれる感触がし、気づいた頃には自分の体は地面に伏せられた。見えない、避けれない、身動きが取れない。
「降参です・・・やはり不死長老が見込んだだけのある方ですね。疑ってすみません」
「ああ、いや、急に出てきた新人だし。それがいきなり幹部リーダーだもんな。疑われても仕方がねぇよ」
伸郎は掴んだ手をすぐに離す。そして、お互いまた向かい合ってお辞儀をした。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
それを見た見物人は興奮していた。
「スゲー、あの強さんよりも強いなんて!」
「やっぱりかっけぇ」
「噂通り!いや噂以上!」
最後に2人は
「宜しくな」
「はい!宜しくお願いします」
と言って固い握手を交わした。強は伸郎の手に触れこの人は強い!と改めて思った。別に強く手を握られた訳じゃないがリーダーにふさわしいと思わせる、強いと思わせる何かを感じた。格闘技をやっている者は組んだだけでコイツは強いと分かると聞いたことがあるがまさにそれだろう。全員、手合わせが終わるとトレーニングルームへ戻った。伸郎は挨拶も手合わせも終えたので一旦、不死長老の元へ向かった。
伸郎が不死長老の元へ着くと男子中学生に挨拶を終えた和夜と騎士もちょうど居た。
「強くんの挨拶が終わったから一旦、戻って来たぜ」
「強くんと仲良くなれそうだったかい?」
「ああ、若いのに優秀で良い奴って感じだった」
「良かった良かった。今、黒葉くんが男子中学生2人に委員会の説明しながら勧誘をしているから伸郎くんも顔を出してあげて欲しい。あの感じだと2人は委員会には入ってくれそうだしの。それに、トップに挨拶されるなんて嬉しいだろうし」
トップと言われた伸郎の高い鼻がさらに高くなる。
「せっかくだしな。挨拶しに行って来るわ」
ふと不死長老は和夜を見て元気がないように見え心配になったが緊張しているだけかな?と思った。伸郎は和夜と騎士の方へ向いて話す。
「俺は強くんっていう今まで戦った中でもかなり強そうな奴に会って来た。和夜さん達よりは年上だがスゲー礼儀正しい奴だったから話しやすいと思うぞ」
「そっか。じゃあ安心だな。行って来るね」
「おう」
お互い向かうべきところへ向かった。伸郎がリゼとキンバの所へ顔を出すと騎士と同じ位か、それ以上に
「伸郎さん!リゼです!誰よりも1番!チョー尊敬してます!俺!」
「俺も!リゼに負けない位に1番!1番!尊敬してます!」
という感じで生意気な態度は取らなかった。




