【天使】養殖・第二話(4)
紅の瞳が笑ろとらん。
問われたほうの【天使長】は涼しい顔、
「心配いりまへん。ちゃんと安全なとこに待機さしてありまっさかい」
「今すぐ参上させよ」
ていう【神女】の命にも、
「さあさ、それは……」にやけた笑いうかべて、「そや【神女】はん、ご自分でお探しなはったら……?」
目を細めた【神女】、
「汝、正気か? よくよく考えて口をひらけよ? 【邪天使】をどこへやった、答えよそかり」
「つつしんでお断りもうしあげま!」
従順にして惰弱な手下としての仮面が、かなぐり捨てられよった。
「せっかくつかまえた、わが嫁への手がかりや。すんなり差し上げるわけにはいきまへんな!」
「裏切りし女房に、まだ未練がそかり?」
て、わずかに眉を逆立てた【神女】に、
「ようやくや……このチャンスをずっと待っとった……!」
どこまでも好戦的な口調で【天使長】、
「『本国』におったときとは違いまっせ? ここはあんさんがたの『離宮』とはいいじょう、いわば出先で前線や。随行の【仙女】はんがたもそこまで多うはない。対処可能なお人数や。しかも、わては『本国』の年寄り連中とは違ごて、あんさんがたを呑んでかかるだけの気概がある! わていう男を甘もう見はりましたな。ほな、お覚悟……!」
路上で拾たつんつるてんのロンTの腕ひろげて、
「【神女】はん、今日を限りにお暇をいただきま! 思たとおり、【超準語】はこしらえたらあかん言語やった! ほんでも、できてもうたもんはしゃあない。これからは一介の研究者に戻って、改良に努めます。もう少し人間の善性を反映できる言葉にしていかんと……。けど、そのまえに!」
高揚ていう名の美酒につけこんだするめみたいな口上を噛みしめ、味わいながら、
「甘やかされ放題のわがまま娘に、待望のおしおきフェスティバルや……!」
言われてる【神女】も、【仙女】たちも、今はもう表情を消して、【天使長】が腕ふりまわしてしゃべるさまをただ見つめてる……。(『【天使】養殖・第二話(5)』に続)