5 約束
「藍那ちゃんだっけ?お、同い年か!俺は上里天城、よろしく」
「き、気安く人の名前を呼ばないで」
「そうカッカするな、嬢ちゃん、この区域では数少ない日本人仲間だぞ~」
「そうだーそうだー細川さんの言うとりだ」
「こ、こいつら!ふん」
15年前、私、山城藍那は覚醒者として戦場にいた。
そこで出会ったのがのちの大英雄、上里天城。
最初は少し子供っぽい少年だと思っていた。
だが、違った。
彼は恐れを知らない。ただの高校生なのに、強大な怪物相手に躊躇なく立ち向かい、屠っていく。勇敢、いや狂気。
そして彼の持つIW「ストーン・ヘンジ」は他の覚醒者たちが持つIWとは各が数段違った。
ことその攻撃力において恐らく宇宙に並ぶものなし。次元断絶シールド持ちの怪物だろうが、因果律操作で無敵となった怪物だろうが、その一撃で確実に穿つ。
あらゆる前提を無視してだた、穿つ。
究極のIW、故に後のファーストたちはストーン・ヘンジをアルティメット・アイデンティティウェポン、【UIW】と呼んだ。
上里天城が、天城君がいなかった、地球は数千回は滅びていたはずだ・
何度も命を救われた。
そうして次第に心惹かれるようになった。
「俺のことが好き?」
「う、そうよ、悪い!」
いつの間にか告白していた。でも…
「うーん、すまん…」
「な、なんで」
「実を言うと俺も藍那を好ましく思っている、でもな」
「でも?」
「多分、俺、死ぬから」
「へっ?」
とここで細川さんが割って入ってきた。
「おいおい、天城、お前自分の、立場がわかってないな」
「どういう意味だ?」
「覚醒者を含めた人類の全員がお前に命が救われている、お前は英雄なのだよ!」
「ははは、随分大事になっているな…だが、細川さん俺には…ストーンヘンジには切り札の一撃がある」
「なんだ、それは?」
「その一撃を放つと、俺は死ぬ、反動で」
「!?なら、それを使わなければ」
「…わかってんだろ、細川のおっさん、ダンジョンは怪物はそんな甘くない」
「くっ」
天城くんが…死ぬ?
「なっ」
「おいっ」
私は走り出す、あてもなくベースから出て、荒野を走る。
天城くんが、天城くんが、死ぬ?
天涯孤独の私の最初の友人、でお兄ちゃんみたいで、それで、大事な人で。
そんな天城くんが…死ぬ・
私は立ち止まり、うずくまった。
どうして、どうして、世界は、私の大切な人を連れて行ってしまうの!どうして!
「どうして、なのよ」
「さあな」
と後ろから声、立ち上がり。
「ねぇ、天城くん、あなたが、死ぬなら、私も死ぬ」
「…そうか、じゃあ、こうしねえか」
「…」
「俺は確かに死ぬ、だからさ、転生する!」
「…は?」
「平和になった世界で転生して、今度は俺から告白する」
「そんなの、そんなの」
「だから、お願いだ、俺は守りたい、お前を含めたすべてを!」
「…わかった」
「おう、ありがとう、俺は、必ずこの世界に、戻ってくる」
それが彼と私の交わした最後の約束だった。
そうして彼は…死んだ。
そこから私の体は成長も老いもしなくなった。
解らないけどわかる。私はきっと彼と人生を歩みたいから、だから。
決戦の後、他のファーストたちは要職に着いたり、会社を建てたりと支配階級となった。私にもそんな話が来たけど、どうでもよかった、むしろ煩わしいと思った。だから隠居した。
「朝ね」
昔の夢を見ていた。
起き上がる、相変わらず15歳から変化のない私の身体。
姿見に全身を映す。
「うん、超美少女ね」
ふざけたことを宣う私、最近こうふざけでもしないと発狂しそうだから。だから、ねぇ、天城くん、あなたは、約束を。
「自画自賛にしても、すごいね」
いつの間に、部屋の壁にもたれかかりこちらを見る、少女がいた。
かなりの容姿端麗だ。私に勝るとも劣らない。
だが、そこは今重要じゃない。
AIWをすぐ起動できるように体制をとる。
この隠居先のバンカーは並大抵の手段じゃ侵入できない、つまり目の前の少女は非常に危険な存在。
「…あなた誰?」
「誰だと思う?」
ここまで来たら問答無用だ。
「【アルティメットプロメテウス】起動」
瞬間、超高温の核熱ビームを少女に向かって放つ。
さあ、あなたはどこの機関の回し者かな?これに耐えられたらたっぷり尋問してあげよう。
そう、思っていた。
「【ストーン・ヘンジ】起動」
…は?
私が放ったビームは、一瞬でかき消された。
いや、今はそんなことはどうでもいい。だって!
「天城、君?」
AIWは魂そのものだ、他のIWと違って本人しか使えない。
「今は天城、ちゃん、だけど」
そう言って天城は笑った。
性別すら変わっているのに、それは間違いなく上里天城のする笑顔であった。
「久しぶり藍那、ちゃんと約束、守るよ」
そう言って女の子になった天城くんは私に近づき、私を抱きしめ、言った。
「愛している、藍那、いままでも、これからも」
何もかもかわった少年、何もかも変わらなかった、変われなかった少女。
二人の最後の約束は今、果たされた。