表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

邂逅(ファクラーブ)

「困ったな」


 男は、その黝い髪を掻いた。


「勢いよくここまで飛んできたと思ったら、言葉が伝わらないところまで来てしまったか」


 青色のローブを見に包んだ男の前には、五人の五人の男たちが立っていた。


 どれも、暑苦しそうな白いもこもこの防寒着を身に着けている。


 彼は目の前の人々が、とても同じ人間のようには見えなかった。


 まず、肌が死人のように白かった。

 更にどの人間も、優雅さとは程遠い、筋肉が前面に押し出たような体系をしている。

 そして、その顔にはありとあらゆる生傷が見受けられた。彼らはそれを隠そうともせず、それどころか、自身の誇りであるかのように見せつけているかのようだった。


 そして手には弓を持ち、その背には矢の入った筒を背負っている。


 原始的な狩りを行う人々なのだろう。


(……ああ。こんな考えはいけない。あらゆる国と文化を支配する帝国だ。そしてわたしはその皇族だ)


 とはいえ、目の前の文化すら持っているか怪しいような相手が、帝国が支配するに足る相手なのかすら疑わしいように見えた。


 しかし、この民族たちは、一体どのように挨拶をするのだろうか?


 皆、空から飛んで(・・・・・・)降りてきた彼を(・・・・・・・)、不思議そうに眺めている。


 そんな彼を見て、肌の白すぎる彼らは、彼の前でしばらく何やらざわめきたてていた。

 その言葉を、彼は一つも理解することができない。


(そもそもこれは言葉なのだろうか? こんな言葉がこの世に存在していたとは。全く意味も見いだせない、雅さの響きが全く感じられない言葉だ)


 こんなものが、帝国の領内に存在していたとは。彼は不思議に思った。


 民俗学の授業は一度も欠かしたことがないが、これほど奇妙な人々に出会ったのは初めてだった。


 さらに困ったことに、こちらの言葉を彼らは全く介さなかった。


 帝国の領民であるならば、領民独自のことばを使う事などいくらでもあるだろうが、帝国の挨拶の一言も介さないとなれば、話は別だった。領民ならば、挨拶の一言二言くらいは介してしかるべきだ。

 この狩猟民族たちは、さすが帝国の端にいる人々と言うべきか、まさに未開の民族、と言ったような感じだった。


 それにしても、帝国の中でも名のある神話の山であるテーリン山のふもとにいる民族たちが、このような未開の部族であるとは、思いもよらなかった。


 そう思っていると、五人のうちの一人が、集団から離れて少し遠い所へと歩いて行く。


 そしてなにやら、指笛を吹き始めた。


 随分と抑揚に富んだ激しい指笛だ。


 しかし、なぜ今指笛を吹くのだろう? そして指笛で奏でる音楽にしては激しすぎるし、音楽のようにも聞こえないほどだった。


 そしてやっと、口笛が吹き終わる。


 すると、今まで男を見ていた四人の全員が、一斉に男のほうを向いた。


 そして何やら、耳を向けて、集中して何かを聞こうとしている。


 しかし、男には何も聞こえなかった。


(聞くべき指笛なら、つい先ほどもう吹き終わったぞ。とはいっても、聞くべき旋律でもなかったのだが)


 何か、男には聞こえない何かの幻聴を、彼らは訊いているのか。


 それとも、何かしらの魔法でも使って、誰かと通信でもしているのだろうか。そちらの方がまだ納得できた。


 すると、でたらめな何かの指笛を吹いていた者が、こちらに戻って来た。


 おそらく、周りの反応からすれば、この者がこの中での最も地位が高い存在だろう。

 体からは優雅さを感じないが、雰囲気には高い二位に立つ者の風格が見える。


 そのものが、何か理解できない音の節を口にする。


「パンズィメテマミユ。ナパインドゥフノピトゥニャル?」


 何かの挨拶なのだろうか。


 相手の顔からは敵意が感じられないが、かといって口から発せられる言葉からは何も感じられなかった。しいて言えば、珍妙な発音で、気を取られるというくらいだ。


 意味が分からないので、反応しようにもできない。


 というか、言葉を離せないのならば、まだいい。


 この者たちは、この自分を見ても、何も思わないらしい。せめてそれに対する挨拶として、礼式のひとつでもしてもらえれば、分かりやすいのだが。


「そなたたちが何を言っているのか、わたしにはわからない」


 男はそう口にした。


 すると、目の前の彼は、少し眉を吊り上げる。


「帝国の言葉は話せるか?」


 反応を示した彼に対して、再び問いかける。


「帝国……ハンファクールだ。わかるか?」


 何か、彼は思いいたったような顔をする。

 しかし、結局のころ、何も話してこない。


 男はため息をつく。


「言葉の伝わらない存在に、言葉で伝えようとしたのが悪かったようだ」


 男はそう呟いて、振り返った。


 その時、五人の白い男たちがざわめいた。


 男の視界の先の空には、いくつもの、黒い点のようなものが浮かんでいた。

 数えてみれば、それは十ほどもあるだろう。


 よくよく注視してみれば、その黒いものは、どれもローブを羽織った人間だという事が分かる。

 それらが、こちらへと向かって少しずつ近づいてきていた。


「カエパナニャ!?」

「ピトゥゾトビニャル!」


 口々に、彼らが叫び声をあげる。

 その意味は分からないが、男は飛ぶ自分たちを見て驚く人々を何度も見てきた。おおかた言っていることの見当はつく。


 それに未開の民族たちだ。無理もないだろう。


 豆粒ほどの大きさだった人々たちは、あっという間に速度を増し、男の方へと近づいてきていた。


 それと同時に、五人たちのざわめき声も大きくなっていく。

 そのリーダーの風格を持つ男がほかの四人を手で下がらせるのを尻目に、飛んでくる人々のほうへと顔を向けた。


「遅かったではないか、ルイセーム」


 一番最初に着地した男に、そう声をかける。


殿下(フィヤ)がお早いのです」


 ルイセームと呼ばれた男はそう答えた。

 ローブのフードを外すと、そこから漆黒の髪の毛が現れる。


「ルサーニュ殿下(フィヤ)、その者たちは?」


 ルイセームは、ルサーニュの後ろにいる五人の男たちの方に目を向けた。


 警戒するように自分たちを見ていた彼らが、再びまた別の方向を向いて、何かを聞いているようなしぐさをしている。


(変な習慣のある民族たちだ)


 そう思いながら、ルサーニュはルイセームに顔を向けた。


「今さっき出会った、未開の民族たちだ。いろいろと尋ねてみたが、全く言葉が伝わらない」


 そういっているうちに、ほかに何人ものローブの人々たちが、男の近くへと着地する。


「そうですか。では、また別をあたりましょうか」

「ああ。ここははずれのようだ。近くのほかの言葉の伝わる集落を探して、目撃情報を探すんだ。ここの近くにいることは確実だ、ロフーユは……」

「ロフーユ?」


 五人の男たちの誰かが、それをつぶやいた。


 ルサーニュが思わず振り返る。


 そして目を見開いた。


 五人の男たち全員が、その弓に矢をつがえ、こちらに構えていた。


「ルイセーム、どうやら、はずれと決まった訳ではなかったようだ」


 弓を構える男たちは、全員、明らかにこちらへと敵対心を向けていた。


「ロフーユを、知っているようだ」


 なぜ、その名前を彼らが知っているのか、そしてそれが攻撃に繋がるのかはわからない。


 しかし、男は口端を上げた。


 空中に、一本の長い杖が出現する。

 その杖には青色を基調とした、細かい装飾が施されていた。


 ルサーニュはその杖をつかみ、地面に突き立てる。


 ルイセーム、そしてその後ろに続く者たちの手にも、それぞれの杖が現れた。


「何が何でも、聞き出すんだ。わが妹、ロフーユの居場所を」


 手にした杖を相手へと向け、彼はつぶやいた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ