叙爵式(ジョシューオソ)
「スファー・フラージュ=スファル・テレール伯爵・テリ」
広く響き渡る凛とした女性の声が、俺の名前を呼んだ。
しかしその名で呼ばれても、俺に頭にはなじみなく、やはりまだ違和感がある。
「そなたが帝国貴族として叙せられ、そしてそれを認め、義務と責任と権利を負う事を、皇女殿下に誓え」
「――――仰せのままに」
俺は慣れない言葉を、慣れない言葉で口にして、目の前に立つ、純白の皇族衣裳に身を纏った女性の手を取った。
そして、俺は事前に覚えた、たどたどしいセリフを口にした。
「私が果たすべきすべての義務と責任を負い、その権利を帝国のために使う事を誓います」
そして、俺は手に取った、まるで雪のように白い手の甲に、接吻した。
ひんやりとした感触が、俺の唇に伝わる。
そして頭上から、声がする。
「――これより、わが帝国ハンファクールは、そなたを帝国を統治する高貴な一員である貴族として認める」
その瞬間、大きな鐘の音が響いた。
しかし、それだけだった。
ここには、二人しかいない。
参列する者も、来賓の貴族もいない。
だれもいない、たださびれた教会の中で。
俺は、貴族に叙せられた。